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新潟地方裁判所高田支部 昭和58年(ワ)35号 判決

第一事件原告

石黒信行

山岸行則

小林保之

小山茂

第二事件原告

新保幸三

右五名訴訟代理人弁護士

今井誠

近藤正道

和田光弘

宮本裕将

第一及び第二事件被告

日本ステンレス株式会社

右代表者代表取締役

明田義男

第二事件被告

日ス梱包株式会社

右代表者代表取締役

野村新平

右両名訴訟代理人弁護士

鶴巻克恕

主文

一  第一事件原告石黒信行が同事件被告日本ステンレス株式会社の直江津製造所従業員であることを確認する。

二  第一事件被告日本ステンレス株式会社は同事件原告石黒信行に対し、別紙目録番号1(原告石黒信行欄)記載の金員を支払え。

三  第一事件原告山岸行則、同小林保之、同小山茂の請求をいずれも棄却する。

四  第二事件原告新保幸三の、第二事件被告日ス梱包株式会社が同原告に対してなした昭和五八年七月二〇日付の第二事件被告日本ステンレス株式会社への復帰命令が無効であることを確認する旨の訴、第二事件原告新保幸三が同事件被告日本ステンレス株式会社及び同事件被告日ス梱包株式会社の各従業員であることを確認する旨の訴、第二事件被告日本ステンレス株式会社は同事件原告新保幸三に対し、同原告が出向・配転反対運動等正当な組合運動をしたことを理由として、昇給、昇格その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない旨の訴をいずれも却下する。

五  第二事件原告新保幸三のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、第一、第二事件を通じてこれを五分し、その一を被告日本ステンレス株式会社の、その余を原告山岸行則、同小林保之、同小山茂、同新保幸三の各負担とする。

七  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 原告石黒信行、同山岸行則、同小林保之及び同小山茂(以下「原告ら」という)が、いずれも被告日本ステンレス株式会社(以下「被告日本ステンレス」という)の直江津製造所所属の従業員であることを確認する。

2 被告日本ステンレスは原告ら各自に対し、別紙目録記載の各金員を支払え。

3 訴訟費用はいずれも被告日本ステンレスの負担とする。

4 2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告日本ステンレスが原告新保幸三(以下「原告新保」という)に対してなした昭和五八年七月二〇日付の被告日ス梱包株式会社(以下「被告日ス梱包」という)からの出向解除命令及び同日付の被告日本ステンレス千葉製作所への転勤命令が、いずれも無効であることを確認する。

2 被告日ス梱包が原告新保に対してなした昭和五八年七月二〇日付被告日本ステンレスへの復帰命令が無効であることを確認する。

3 原告新保が被告日本ステンレス及び同日ス梱包の各従業員であることを確認する。

4 被告日本ステンレスは原告新保に対し、同原告が出向・配転に対する反対運動等正当な組合運動をしたことを理由として、昇給、昇格その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない。

5 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1 本案前の答弁

請求の趣旨2乃至4をいずれも却下する。

2 本案の答弁

請求の趣旨1を棄却する。

訴訟費用は原告新保の負担とする。

第二  当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 被告日本ステンレスは、ステンレス鋼、耐熱鋼、チタニウムその他各種金属及び合金の製造、加工並びに販売等を目的とする株式会社である。

2 原告らは、昭和四三年四月から昭和四八年七月までの間に被告日本ステンレスの工場である直江津製造所に工員として雇用され、原告石黒信行(以下「原告石黒」という)、同小林保之(以下「原告小林」という)及び同小山茂(以下「小山」という)は第一ないし第二製造部に配属され、原告山岸行則(以下「原告山岸」という)は第二製造部に配属された後、昭和五二年一〇月一九日右直江津製造所在籍のまま、被告日本ステンレスの子会社である日ス梱包株式会社(以下「日ス梱包」という)に出向を命ぜられ、同社加工課に所属しているものである。

3 被告日本ステンレスは、昭和五三年一二月一日、原告石黒、同小林及び同小山に対し、被告日本ステンレスの子会社である鹿島日本ステンレス株式会社(昭和五四年一〇月一日被告日本ステンレスと合併し、鹿島製造所となる。以下「鹿島製造所」という)への期限の定めのない出向命令を、原告山岸に対し、日ス梱包への出向を解き、被告日本ステンレスの千葉製作所への配転命令を発したが、原告らが右出向・配転命令(以下「本件出向・配転命令」という)を拒否したため、昭和五四年一月一日以降の賃金を支払わず、同年一二月二七日原告らに対し、従業員就業規則第五〇条第三号に該当するとして懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という)する旨の意思表示をして、原告らと被告日本ステンレス間の雇用関係の存在を争つている。

4 原告らが被告日本ステンレスから支払を受けていた賃金のうち、固定部分(基準内賃金)は別紙目録記載の通りである。

5 よつて、原告らは、被告日本ステンレスに対し、雇用契約上の地位の確認及び賃金支払請求権に基づき昭和五四年一月一日以降別紙目録記載の各金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実1乃至4はいずれも認める。

三  抗弁

(本件出向・配転命令及び本件懲戒解雇の適法性・合理性)

1  本件出向・配転命令について

(一) 本件出向・配転命令に至るまでの被告日本ステンレスの状況

(1) 昭和四九年から我国を襲つた不況はいわゆる電力多消費型の被告日本ステンレスには特に厳しく、昭和五三年三月期には被告日本ステンレス、鹿島製造所を併せ二三億円の累積赤字を抱えるに至り、特に直江津製造所の担当する中厚板、棒、鋳物チタンはたちゆかない状況になつた。そのため、被告日本ステンレスは経営体質改善推進会議を発足させ、あらゆる減量計画を実施し、人員についても配転、応援等機動的な人員配置をし、更に、昭和五二年一〇月には日ス梱包、日スサービス株式会社、日ス印刷株式会社等を設立し、鹿島製造所に対する出向等を含め、人員の適正配置に努力してきた。また、昭和五三年一月から同年三月までに生産をおとすため、直江津一九日、千葉一三日、鹿島製造所一三日の休業を、同年四月から同年六月までに直江津一三日、千葉七日、鹿島製造所七日の休業のほか、直江津六日、鹿島製造所五日の訓練日を設ける等して生産の調整に努めた。

(2) しかし、被告日本ステンレスの売上高は、昭和五一年度六二〇億円、昭和五二年度五五四億円、昭和五三年度五〇〇億円と急激に減少し好転は見られず、この間雇用人員確保のために固定費中人件費の占める割合は売上高に対し昭和五一年の一二・九パーセントに対し、一六・二パーセントと上昇するに至つた。これを昭和五三年三月期における同業二社と比較すると

売上高(億)人件費(億) パーセント

当 社 五五四   八三  一五・二

日金工 六六四   七六  一一・五

治金工 六六七   六五   九・八

となり著しい格差を生ずるに至つたし、このまま推移すると被告日本ステンレスとしても経営上重大な事態に追い込まれることは必至となつた。そこで、被告日本ステンレスは昭和五三年九月七日に開催された中央労使協議会において、緊急体質改善策として(1)販売対策、(2)コストの合理化対策、(3)金利の削減、(4)諸経費の削減、(5)業務組織の簡素化等の合理化対策と共に被告日本ステンレス(鹿島製造所を含む)全体で三三〇名の勇退者を募る外に三五名の出向者を含む合理化案を被告日本ステンレスの従業員(本社職員を除く)で組織されている日本ステンレス直江津労働組合(以下「訴外組合」という)に提示したところ、同組合も右提案を了解した。そこで、被告日本ステンレスは、右中央労使協議会の結果を踏まえてその後の希望退職者の募集をはじめた。

(二) 本件出向・配転命令の必要性

(1) 被告日本ステンレスは、前記勇退者を募集するに際し、訴外組合から、各事業所、鹿島製造所ごとに人員枠を限定することなく全社的に勇退者の枠を決めて募集して欲しい旨の申し入れがあつたので、右申し入れに従つて募集したところ、次のように必要な人員と応募後の人員との間に差が生ずるに至つた〈編注・表1〉。

表1

一一月一日 現在、五三・四・四半期除管理職・関連会社出向者

在籍人員

所要人員

応募者

余剰(+)(-)

直江津

一一二七

一〇一七

二一六

(+)  一一〇

千葉

三一

三六

二一

(-)     五

本支店

二三四

二五五

三五

(-)    二一

鹿島製造所

三六三

三七九

六五

(-)    一六

(2) 訴外組合からの前記申し入れの時点で右のように各事業所間での差が生じ、各事業所間での転勤・出向による人員調整が必要なことは既に予想されていたので、被告日本ステンレスは右の時点で訴外組合に対し、各事業所ごとに人員枠を限定しない代り、事務技術職から作業職への職掌転換、作業職の間接部門から直接部門への配置転換、事業所間の転勤・出向が人員募集後の要員調整措置として必要なことを申し入れ、その了承を得ていた。

(3) そして、前記勇退者募集の結果、直江津製造所には一一〇名の余剰人員が生じ、逆に千葉製作所、鹿島製造所には不足人員が生じたため、その調整措置として原告らに対する本件出向・配転を行つた。この措置をとることにより、各事業所ごとに勇退者予定数に人員が満たない場合にも、全体の人員を考え勇退者募集を打切り解雇する等の強行措置を避けることとした。従つて、本件出向・配転が円滑になされない限り、前記合理化計画はその目的を達し得ないこととなる。

(三) 原告らを人選した過程

(1) 前記のとおり、鹿島製造所、千葉製作所はともに必要人員を大巾に割る勇退者の応募により、極めて厳しい欠員状態となつた。そこで、被告日本ステンレスは当面緊急必要な人数(鹿島二〇名、千葉四名)を出向・配転させることとした。なお本社からEDPSプログラマーとして二名欠員補充の要請があり、これも同時に行つた。

(イ) 鹿島製造所 二〇名

(Ⅰ) 昭和五三年一月乃至三月以降の増産に必要な人員CB三名

(Ⅱ) 上工程の鹿島集約に必要な人員AP七名需給二名

(Ⅲ) 各ラインの欠員の補充八名(内訳は、クレーン保全一名、CG一名、圧延一名、推進一名、電気一名、検査二名、環境管理一名)

(ロ) 千葉製作所 四名

薄板精整工程の作業職を主体に四名

(ハ) 本社経理部 二名

EDPSプログラマーとして二名

(2) 直江津製造所における業務部より現場への人選依頼

(イ) 鹿島製造所関係(二〇名)

(Ⅰ) 鹿島製造所の要望する職種別人員にできる限り応ずる方針として、鹿島とほとんど同一作業を行つている薄板課に対し、AP五名、圧延一名、CG一名、検査一名の計八名の職種別人選を依頼した。

(Ⅱ) 設備部より需給免許所有者一名

(Ⅲ) その他職種を定めず各課に依頼

製鋼課四名、鍛圧課四名、鋳造課三名計一一名

(ロ) 千葉製作所

(Ⅰ) 千葉精整ライン向けに同様作業している日ス梱包RSラインより一名

(Ⅱ) 千葉検査又は精整ラインの要員向けに同じストリップ製品を扱つている薄板課及び品質保証課ストリップ検査班より各一名

(Ⅲ) 他に鍛圧課へ職種を指定せず一名

(ハ) 本社経理部

EDPS向け適性要員二名を設備部へ依頼

(3) 人選の基準

(イ) 出向、転勤経験者は原則として除外すること

(ロ) 家庭事情を勘案すること、特に職種を指定しない者は広い範囲から選考すること

(4) 原告らを各課で人選した経過

(イ) 薄板課(鹿島八名、千葉一名)

(Ⅰ) AP五名

独身者及び社宅入居者を主に対象として、AP在籍四〇名中独身者五名、社宅入居者二名、比較的動きやすいと思われる者一名の計八名より、出向経験者一名、業務上必要な責任者(班長)クラス一名、今後の機械化、オートメ化に対処しうる者として電気工事士の資格を有する者一名の計三名を除外し、原告石黒、同小林、武藤利宏、坂詰省三、小池義武の五名を人選。

(Ⅱ) 圧延一名、CG一名

圧延については、鹿島と同一作業を行つているR―201班の在籍一七名中独身者四名の中から最もベテランである白砂英春を、鹿島CG向けには、直江津製造所のCGが要員不足のため、圧延に所属しCGの経験もある島田政義を人選。

(ロ) 日ス梱包(千葉一名)

千葉製作所の作業と類似性の高い加工課一八名中、業務上必要な班長、出向経験者を除く一二名の中から、就学中の子女のいない技能的にも充分なものを持つている原告山岸を人選。

(ハ) 鍛圧課(鹿島四名、千葉一名)

鍛圧課在籍一七二名中独身者二四名の中から、両親と三人家族、同居家族に男兄弟なし、両親のいずれかが欠けるかまたは病弱な者がいるという家庭事情の基準に該当する者を除外し、岩野武司、竹田徳夫、原告小山、関口民春を鹿島出向者として人選し、千葉については、柳沢隆行が独身者ではないが会社再建に協力して配転に応じている。

(四) 本件出向・配転の手続

被告日本ステンレスと訴外組合との間の労働協約第一二条には「(異動)会社が組合員に転勤、出向又は職場の変更をさせようとするときは、組合と協議して行う。異動に住所の変更を伴うときは、会社は必要な措置を講ずる」旨の規定が、就業規則第四条には「(転勤、出向又は職場の変更)従業員は正当な理由なしに転勤、出向又は職場の変更を拒んではならない。」旨の規定が存在する。被告日本ステンレスは右各規定に基づき昭和五三年一一月二二日開催の直江津製造所再建労使協議会、更には同月二五日、二八日、三〇日、一二月一日開催の各人事委員会で協議を重ねた結果、原告らの出向・配転については何れも異議ない旨の回答を得て、同年一二月一日原告らに対し、本件出向・配転を命じたのである。以上のとおりであるから、本件出向・配転命令は適法である。

なお、鹿島日本ステンレス株式会社は、昭和四三年四月設立され、本社は被告日本ステンレスと同一地にあり、役員六名のうち五名は被告日本ステンレスと兼務しており、両社は資本系列も同一であるほか、製造内容、労働条件も同様であり、人事及び業務指揮権も一体性があつて被告日本ステンレスが決定しており、実質的には被告日本ステンレスの一事業所であつたもので、現に前記のとおり合併するに至つている。右を考慮すれば、本件出向について原告らの同意は不要というべきである。

2  本件懲戒解雇について

1に述べたとおり、被告日本ステンレスは原告らに対し適法に出向・配転命令を発したのであるが、原告らはこれに従わず、その後の再三の説得にも拘らず、それぞれ命令に示された職場に就労しようとはしなかつた。

被告日本ステンレスの労働協約第二五条第三号、就業規則第五〇条第三号によれば「正当な理由なしに、業務上の指示、命令に従わず、または当所の風紀、秩序をみだしたとき」は懲戒解雇に処する旨定められているところ、原告らの右行為は、職務上の指示、命令に従わず、かつ被告日本ステンレスの職場秩序をみだしたことに該当するので被告日本ステンレスは原告らを右就業規則の規定に基づき懲戒解雇することとし、労働協約第一八条に則り、昭和五四年一月一一日訴外組合の意見を求めたところ、同年一二月二〇日同組合から本件解雇に限りこれを同意にかからしめるか否かの権利を放棄する旨の回答を得たので、同月二四日原告らに対し、同月二七日付をもつて、懲戒解雇する旨の意思表示をし、右意思表示はそのころ原告らに到達した。よつて、本件懲戒解雇は適法かつ正当である。

3  以上のとおりであるから、被告日本ステンレスと原告らとの間の雇用契約関係は昭和五四年一二月二七日懲戒解雇により終了した。

四 抗弁に対する認否及び反論

1(一)  抗弁1の(一)は知らない。同(二)、(三)は争う。同(四)のうち、被告主張の労働協約、就業規則があること、昭和五三年一二月一日原告らに対し、本件出向、配転を命じたことを認め、その余は知らない。

(二)  被告日本ステンレスと訴外組合間の労働協約一二条によれば、組合員の出向・配転について、被告日本ステンレスは訴外組合と十分に協議し、公平かつ適正な取扱をすべき義務がある。しかるに、被告日本ステンレスは、原告らを除いた他の者については訴外組合と十分な協議をしながら、原告らの本件出向・配転については十分な協議を尽さないのみか、原告らの訴外組合における役割や家庭事情を無視して本件出向、配転を命じた。かような被告日本ステンレス及び訴外組合の態度は右労働協約に違背し、従つて、本件出向・配転命令は無効である。

(三)  原告らは、いずれも被告日本ステンレスの直江津製造所の作業員として現地採用された者であつて、自宅からの通勤可能なるが故に被告日本ステンレスの求人に応募し、これまで継続して、両親らと同居する自宅から通勤して来たもので、原告らと被告日本ステンレスの労働契約上、勤務場所を直江津に特定することの合意があつたというべきであるから、原告らの同意のないままなされた本件出向・配転命令は無効である。

また、勤務地、労務指揮を異にする別会社への出向には当該労働者の個別的同意が必要であり、出向先の会社が関連子会社であつても、その取扱いを異にすべきではない。原告石黒、同小林、同小山は鹿島製造所への出向に同意していないのみか、明確に拒絶の意思表示をしているのであるから、これを無視した右原告三名に対する本件出向命令は無効である。原告山岸についても、日ス梱包への出向の解除について本人の同意がないから、同様に無効というべきである。

2(一)  抗弁2のうち、原告らが被告日本ステンレスの職場秩序をみだしたことを否認し、その余は認める。同3は争う。

(二)  被告日本ステンレスは、原告らが従業員就業規則第五〇条第三号に該当するとして懲戒解雇したが、本件出向・配転命令が前記のように無効である以上、その有効なことを前提とする右懲戒解雇も無効である。

(三)  労働協約第一八条前段において「会社は組合員が次の各号の一に該当する外は解雇しない」旨を、同条第五号は解雇の一事由として「懲戒処分として諭旨退職または懲戒解雇が適当と認められるとき」を挙げ、更に同条後段において「前各号の事由による解雇については、労使それぞれの同意を必要とする」旨規定し、懲戒解雇について訴外組合の同意を要件としている。

しかるに、原告らに対する本件懲戒解雇には、訴外組合の同意が一切なく、従つて右懲戒解雇は無効である。

五 再抗弁

(本件出向・配転命令及び本件懲戒解雇の無効)

1  不当労働行為

(一) 原告らは被告日本ステンレスの直江津製造所に採用されて以来、いずれも訴外組合の青年婦人部(以下「青婦部」という)の役員を歴任したほか、上部団体の上越地区労、新潟県評の各青年部役員などを歴任した最も活発な組合活動家である。尚、訴外組合は昭和二二年日本ステンレス労働者により結成され、現在組合員数約一六〇〇名で上越市に本部を、鹿島、千葉に各支部を設置し、鉄鋼労連、新潟県評、上越地区労の各上部団体に加盟している。

(二) 訴外組合は、その実態は本部と直江津支部とが同一体であり、直江津支部が他の二支部に比較して組合活動遂行上圧倒的に有利な地位にある。

即ち、直江津支部はステンレス労働組合の発祥の地である直江津工場に依拠し、右組合運動の中心であり、組合員数においても、組合予算の配分においても鹿島、千葉両支部を圧倒し(両支部合せて全体の約二割にとどまる)、また直江津支部は本部役員を独占し、地域組合活動も活発で、組合施設利用の点においても両支部より有利な立場にあり、特に直江津支部に在籍していなければ専門部殊に青婦部活動が不可能となる。そして、直江津支部は他の二支部に比して組合活動が活発である。

被告日本ステンレスは、原告らの直江津支部における組合活動を嫌忌し、原告らの組合活動上の諸利益をはく奪するため島流し的に本件出向・配転に及んだものである。

(三) 被告日本ステンレスは、昭和四四年七月鹿島に鹿島製造所を設立して以来、直江津製造所の余剰人員の整理、各事業所間の人員の適正配置と称して、毎年のように鹿島、千葉等への出向、配転を実施し、特にドルショック、オイルショックによる不況が叫ばれ出した頃からは、その規模を拡大し、テンポを早めて来た。これと併行して被告日本ステンレスは採用内定者(学卒者)の採用延伸、特別従業員制度の導入等による賃金の抑制、日雇、季節工、嘱託といつた臨時職員の解雇、技術、事務系統職員の作業員化、一時帰休制の採用といつた一連の経営合理化を実施し、そして昭和五三年秋にはついに直江津製造所を中心に三七七名もの大量の人員削減を実施するに至つた。

右一連の経営合理化に藉口して、被告日本ステンレスは原告らの所属する訴外組合の役員選挙に介入し、戦闘的な組合活動家を前記(二)で述べたように活動困難な子会社や本社等に出向・配転させ、残つた組合活動家に対しては日常的に種々のいやがらせをするなどして、訴外組合の弱体化を進めて来た。

即ち、被告日本ステンレスは、鹿島、千葉への工場進出に伴い、直江津製造所のスクラップ化を図り、訴外組合の組合運動の中核ともいうべき青婦部所属の組合員を中心として、多くの活動的組合員を鹿島、千葉に出向・配転させ、訴外組合を弱体化させている。更に、被告日本ステンレスは、職制を乱造し、それぞれの職制グループ毎に班長会(約一四〇名)、組長会(約三〇名)、主任会(約一〇名)を作らせ、頻繁に会合を開かせては各職制間の連帯を計り、上級管理職との日常的な接触を計らせては他の一般組合員との分断を図り、組合役員も会社側の意に沿う者によつて独占しようと画策して来た。特に、昭和五〇年八月被告日本ステンレスの職制組合員と労務担当の組合員らによつて、被告日本ステンレス労務の別働隊ともいうべき「八葉会」が秘密裡に結成され、訴外組合の役員選挙では被告日本ステンレスの意に沿う者による組合役員の乗取りが画策され、昭和五三年七月の役員選挙の結果では一、二名の執行委員と数名の中央委員を除き、大半が「八葉会」のメンバーと「八葉会」の推薦する者によつて占められるに至つたが、この結果は、被告日本ステンレスの管理職と「八葉会」会員による徹底した工作の結果であり、これにより訴外組合はいわば被告日本ステンレスの第二労務部の役割すら果すようになつた。

(四) 被告日本ステンレスは従業員に対し、提案制度(職場の諸々の問題点について、労働者個々人に文書でその指摘及び解決方法を提案させ、これを管理職を責任者とした委員会が検討し、提案者に回答する制度)、QC、ZD(QC、ZDは職場末端の数名を単位に、職制をリーダーとしてサークルを結成して行う運動で、QCとは品質管理保証を、その発展的形態としてZDがある)、JK(職場の諸々の問題解決訓練法)など現代労務管理の諸方策(自主管理活動)を職制を通じて押しつけ、それぞれの方策への参加が事実上強制され、右活動に消極的な者は人事考課で報復的、差別的扱いを受け、また職制より種々のいやがらせを受けたりした。訴外組合はこれら自主管理活動の反労働組合的本質に終始無自覚で、反労使協調・階級的労働運動を指向する原告ら良心的少数組合員の指摘にも拘らず、右活動に反対しないとの態度を打ち出していた。

これらは、いずれも前記の被告日本ステンレスによる職制組合員の思想改造と活動家の排除を軸とした近代的労務政策の結果であるが、それらは遂に訴外組合のすべてをひきずり込み、昭和五三年一〇月の大量人員整理の際に訴外組合はストライキすら打つことができないまでに変質、弱体化させられた。

(五) 被告日本ステンレスは、原告らが訴外組合において果している役割を熟知し、原告らを組合活動の拠点である直江津製造所から排斥し、被告日本ステンレスの訴外組合に対する支配を更に徹底する意図の下に、本件出向・配転命令を出したのであり、原告らに対する本件出向・配転命令は右一連の不当労働行為の総仕上げである。

(六) 以上のとおり、本件出向・配転命令は原告らに対する不利益取扱及び訴外組合の運営に支配介入する行為として労働組合法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為である。

2  慣行違反

被告日本ステンレスにおいては、従来住居移転を伴う遠隔地への出向・配転については、当該労働者の同意を得て実施して来ており、同意なしに遠隔地への出向・配転が実施された例は存在せず、右同意を得ることが、慣行化されている。

しかるに、被告日本ステンレスは右慣行を無視して原告らに出向・配転を命じたもので、本件出向・配転命令は慣行違反として無効である。

3  人事権の濫用

前記の各事情に加え、次の諸事情を総合して考慮すれば、原告らに対する本件出向・配転命令及び本件懲戒解雇は人事権の濫用に該当し無効である。

(一) 被告日本ステンレスには、本件出向・配転を必要とする合理的理由がなく、そのうえ、出向・配転の基準も不明確かつ不合理なものである。

(二) 原告らは、いずれも地元出身で地元を離れて生活をした経験がなく、かつ同人らには遠隔地への出向・配転に応じ難い困難な家庭事情がある。即ち、

(1) 原告石黒は、年老いた両親と三人家族であつて、一家の主柱、稼ぎ頭であり、しかも両親ともに脳血栓、脳溢血といつた重篤な病気に罹患して現に入・通院を繰り返している状態で、こうした両親の看病のため一日たりとも家を明けられない状況におかれている。加えて、先祖伝来の家業である農家を維持していかなければならない立場にある。

(2) 原告山岸は、原告らの中で唯一の妻帯者で、二人の子供がいるが、そのうち一人は病弱で手が離せず、しかも住宅の新築のため資金借入れ、その返済に追われている。また、原告山岸は原告らの中で唯一の出向経験者であつて、それも昭和五二年一〇月日ス梱包に出向させられたばかりのものである。

(3) 原告小林は、年老いた両親(養親)との三人家族で、一家の主柱、稼ぎ頭であり、両親ともに高血圧の持病があり、現に通院加療中であつて、原告小林以外に両親の世話が出来る者はなく、しかも家業の雑貨店を維持しなければ生活が成り立たない状況にある。

(4) 原告小山は、原告らの中で最も若くかつ独身であるが、長男であつて家計の重要な担い手で農業後継者でもある。母、祖母には持病があり、通院加療中で、病弱者をかかえての出向は不可能である。

六 再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)の事実中、原告らが最も活発な組合活動家であることを否認し、原告石黒及び同小林が訴外組合の青婦部役員を歴任したこと及び原告らが上越地区労、新潟県評の各青年部役員を歴任したことは知らない。原告山岸、同小山が訴外組合の青婦部役員を歴任したこと及びその他の事実は認める。

同(二)乃至(六)はいずれも争う。

2  再抗弁2は争う。

3  再抗弁3(一)の事実は否認する。

同(二)(1)のうち、家族数を認め、両親が治療を受けていることは知らない。その余は否認する。原告石黒の家族の生計は、父が行つている農業からの収入、農協監事としての収入等があり、これらの収入に相当程度依存していると考えられ、また父親は、農協の監事をしており、転勤時である昭和五三年一一月二六日も農協で監事として午前中監査を行い、午後は南川支所で会議に出席するなど、寝たり起きたりの生活ではなく、更に原告石黒は毎年冬季入寮しており、当面転勤しても何ら両親の生活に支障はないし、兼業の農業もほとんど委託して行つている。

同(二)(2)のうち、子供が二人いること、唯一の出向経験者であることを認め、その余は否認する。原告山岸は土地を購入しているのみで、かつ子供がいても夫のみが働いている者で転勤・出向している者が多数おり、また千葉製作所に行つても託児所等の施設もあり共稼ぎも可能である。

同(二)(3)のうち、家族数、家族構成を認め、両親が通院加療中であることは知らない。その余は否認する。原告小林の家族の生計は同人に依存していると主張するが、昭和五三年の面接時には、収入は自動車購入代金の月賦払等で大半はなくなる旨述べており、両親は雑貨商を営んでいて何らの支障もなく、当面原告小林の援助なくとも支障がない状況にある。

同(二)(4)のうち、家族数を認め、その余は否認する。原告小山の父は被告日本ステンレスの従業員で、弟二人も自宅から通勤し、農業従事者も、祖父、父、原告小山、弟二人、母であり、原告小山が抜けたとしても生計維持困難に陥るおそれはない。

(第二事件)

一  請求原因

1 第一事件の請求原因1のとおりであるから、これをここに引用する。

2 被告日ス梱包は、被告日本ステンレスの直江津製造所における製品、半製品の梱包荷造り、精整等を目的に、昭和五二年一〇月一日被告日本ステンレスの子会社として設立された株式会社で、被告日本ステンレスの直江津製造所内に事務所と事業所を設置している。

3 原告新保は、昭和三二年四月被告日本ステンレスの直江津製造所に工員として雇用され、研究部分析課、製造部第二製板課(現在薄板課)を経て、昭和五二年一〇月被告日本ステンレスから被告日ス梱包へ出向を命じられ、作業部加工課に所属していたものである。

4 被告日ス梱包は原告新保に対し、昭和五八年七月二〇日付をもつて被告日本ステンレスへの復帰を命じ(以下「本件復帰命令」という)、被告日本ステンレスは右同日原告新保に対し、被告日ス梱包への出向を解き(以下「本件出向解除命令」という)、千葉製作所への転勤(以下「本件転勤命令」という)を命じた。

5(一) 原告新保が昭和五二年一〇月被告日本ステンレスから受けた出向命令は、出向元である被告日本ステンレスの従業員としての地位を保持したまま、出向先の被告日ス梱包との間で新たな雇用契約を締結したものとみるべきであり、被告日ス梱包が原告新保に対してなした本件復帰命令は、以後原告新保を被告日ス梱包の従業員として取扱わないことを内容としているから、解雇にあたるというべきところ、被告日ス梱包には原告新保を解雇すべき何らの事由もなく、従つて、本件復帰命令は違法かつ無効である。

(二) 出向命令が従業員の同意を必要とするのと同様に、出向解除命令についても同意が必要であると解すべきところ、原告新保が被告日本ステンレスから受けた本件出向解除命令は、原告新保の同意を得ずになされたものであり、違法かつ無効である。

(三) 原告新保が被告日本ステンレスから受けた本件転動命令は何ら正当の理由がないもので違法かつ無効である。

6 被告日ス梱包は、本件復帰命令により原告新保との雇用契約は終了したとして、雇用関係の存在を争つている。

7 原告新保は訴外組合の組合員として昭和三九年六月から昭和五四年二月まで右組合の青婦部部長、執行委員、中央委員等の役員を歴任し、役員でなくなつた同年三月以降も右組合の少数派グループのリーダーとして活発な組合運動を行つて来ており、また、被告日本ステンレスを相手方とする第一事件の原告である四名が裁判を始めてから、彼らの運動と生活を守るために「守る会」を組織し、会長として終始一貫取組んできた。

被告日本ステンレスは、原告新保の右のような正当な組合運動・組合活動を嫌悪し、これらの活動をしたことを理由に、組合活動をしていない他の従業員と昇格、昇給や一時金支給で差別的取扱いをして来たし、継続している。昭和五〇年六月から昭和五八年六月までの間、昇格と昇給差別により、原告新保は少くとも一〇〇万円以上の不利益を強いられている。このような差別待遇は明らかに労働組合法第七条第一号の不利益取扱の禁止に該当する。

8 よつて、原告新保は被告日本ステンレスに対し、本件出向解除命令、本件転勤命令の無効確認、雇用契約上の地位の確認及び差別待遇の差止を、被告日ス梱包に対し、本件復帰命令の無効確認及び雇用契約上の地位の確認をそれぞれ求める。

二  被告らの本案前の主張

1 原告新保は、被告日ス梱包の本件復帰命令が無効であることの確認を求めるが、右復帰命令は被告日本ステンレスが原告新保に発した本件出向解除命令に伴う事後措置に過ぎず、それ自体独立の意思表示ではない。右出向解除命令があれば、原告新保は被告日ス梱包の指揮、監督を離れ、被告日本ステンレスの指揮、監督のもとに労務の提供をしなければならない。原告新保は本件出向解除命令の無効確認も求めているが、その無効が確認されれば、被告日ス梱包への出向は継続されるのであり、その限りにおいて、本件復帰命令の無効確認を求める利益はなく不適法である。

2 原告新保は、被告日本ステンレスの従業員であることの確認を求めるが、被告日本ステンレスは、原告新保が被告日本ステンレスの従業員であることを認めているので、右確認を求める利益はなく不適法である。

更に、原告新保は被告日ス梱包の従業員であることの確認をも求めるが、本件出向解除命令の無効が認められる限り、右従業員であることの確認の必要はなく、重複して確認を求める利益は存在せず、不適法である。

3 原告新保の被告日本ステンレスに対する差別待遇差止請求は将来における不作為を求めるものであるが、右のような権利関係の明確でない請求は許されず、また、右請求は不作為の形をとつているが、実際は、昇給、昇格を使用者に将来にわたつて求めるもので、原告新保に予め右のような請求をしうる法律上の権利は存在せず、訴の利益を欠くもので不適法である。

三  請求原因に対する認否

1 請求原因1乃至4の各事実はいずれも認める。

2 同5・6は争う。

3 同7のうち、原告新保が訴外組合の青婦部部長、執行委員、中央委員を歴任したこと、被告日本ステンレスを相手とする第一事件の原告ら四人のために「守る会」を組織し、原告新保が会長に就任したことを認め、その余は争う。

四  被告らの抗弁

1 本件転勤命令の経緯及びその適法性・合理性

(一) 原告新保を転勤させるに至つた原因

(1) 被告日本ステンレスは昭和五三年九月に全社的に希望退職を実施し、その他適切な設備投資、人員の配置等経営努力を重ねて来た。しかし、昭和五七年に至るも鉄鋼業界の景気は回復せず、粗鋼生産は同年度九六〇〇万トンに止まり、公称能力に対し五七パーセントの低操業率となり、昭和五八年度には九三〇〇万トン程度と昭和四五年度の水準に落込むことが予想される状況の中で大手鉄鋼メーカーのステンレス業界への進出、他方ステンレス業界も住宅関連需要等の長期低迷、欧州ミルの攻勢、輸出の不振等で大巾な減産を余儀なくされている。

右のような状況下で、被告日本ステンレスは昭和五八年三月には赤字を計上し、同年上半期も赤字基調を避けられなかつた。そのため、被告日本ステンレスの主力製品である薄板も市中在庫が増加し、価格回復のきつかけもつかめず、かつ原材料は値上り傾向にあり、被告日本ステンレスが右のような厳しい情勢の中で生き残つて行くためには、薄板の生産、販売両部門の徹底した効率化を図る必要があつた。

(2) そこで、被告日本ステンレスは右効率化を図るために、かねてからの懸案事項であつた鹿島製造所と直江津製造所との間でコスト差の大きい薄板一般品の生産を低コストで生産できる鹿島製造所に移行する一方、直江津製造所ではチタン、高合金、特殊鋼等の高度の技術を要する高付加価値製品の生産を行うことの必要に迫られ、右懸案事項を実施するため、昭和五七年五月一七日中央労使協議会を臨時開催し、日本ステンレス労働組合連合会(以下「労働組合」という)に次の各事項を提案した。

(イ) 薄板一般品を主体に一か月当り三九〇トンの生産を直江津製造所から鹿島製造所に移行する。

(ロ) 右実施に伴い直江津製造所の薄板課の所要人員を一一五名から九六名に、被告日ス梱包の薄板関連部門の所要人員を四四名から三七名に各減員する一方、鹿島製造所の薄板部門を一九一名から二〇四名に、千葉製作所を二六名から二九名に各増員する。その結果生じる直江津製造所の余剰人員一〇名については鹿島製造所で七名、千葉製作所で三名の合計一〇名分の外注要員を削減し、被告日本ステンレスでこれを行うこととし、鹿島製造所、千葉製作所で吸収する。

(ハ) その結果、鹿島製造所、千葉製作所の増員一六名並びに外注要員の取込みによる吸収人員一〇名は直江津製造所並びに被告日ス梱包より異動する。

(ニ) 異動の方式としては従来の直江津製造所、鹿島製造所、千葉製作所間の技能系一般ローテーションを含めて今後については転勤期間を三年以上と定め、原則として全員の交替制で行う。

(ホ) 実施時期は昭和五八年七月とする。

(3) 右提案を受けた労働組合は基本的には賛成しつつ、次の各事項を被告日本ステンレスに提案した。

(イ) 鹿島製造所、千葉製作所への転勤に伴う諸条件の確立

(Ⅰ) 鹿島製造所、千葉製作所転勤の早期解消に向けた諸対策を明らかにさせる。

(Ⅱ) 人選については本人のおかれている状況を十分考慮させる。

(Ⅲ) 期間については明確にさせる方向で取組む。

(Ⅳ) 途中復帰については本人の事情が発生した場合には直ちに復帰させる。又、直江津製造所の生産体制上、復帰が必要と判断した場合は労使協議の上、復帰させる。

(Ⅴ) 復帰職場については原職復帰を原則とするが、本人の意向で変更する場合もある。

(Ⅵ) 転勤に伴う諸手当の増額を求める。

(ロ) 将来にわたつた安定的な職場と雇用の確保

(Ⅰ) 基本生産量の確保に向けた企業努力を求める。

(Ⅱ) 雇用確保に向けた直江津製造所、とりわけ薄板の当面の計画と将来の計画の早期実施及び事業拡大等の積極姿勢を求める。

(Ⅲ) 欠員補充要員の配置等、要員確保の積極姿勢を求める。

(4) そして、右労働組合の提案、要望について、団体交渉が重ねられた結果、技能職の転勤に関し、次の事項を内容とする「薄板の効率的操業体制実施に伴う転勤に関する協定書」が、被告日本ステンレスと労働組合との間で昭和五八年六月一三日締結された。

(イ) 転勤の期限

転勤は直江津製造所の全技能職が交替で行うこととし、転勤の期間は三年を基準とする。

(ロ) 転勤経験者の取扱い

三年以上の転勤経験者については原則として転勤の対象としない。但し、未経験者のみでの対応に困難が予想される場合は改めて労使協議する。

(ハ) 復帰職場

復帰職場については原職に復帰しうるよう努力する。

(ニ) ラップ期間

鹿島製造所におけるラップ期間は原則として一か月とする。

(ホ) 生産量移行に当つての配慮

生産量の移行並びに人員の移動にあたつては無理の生じないよう配慮する。

(ヘ) 転勤に伴う賃金等の取扱い

転勤に伴う賃金等の取扱いについては転勤したために不利を生じないよう必要な措置を講ずる。

(ト) 転任雑費等の改善

(Ⅰ) 永住者特別転任雑費の適用範囲の拡大

特別転任雑費の支給対象を直江津製造所から千葉製作所に転勤し、永住する者にも適用する。

(Ⅱ) 転任雑費

(a) 転任雑費を一人当り五万円に改める(五〇〇〇円増)。

(b) 現行の六才未満の家族に対する半額支給を四才未満に改める。

(Ⅲ) 帰省休暇

(a) 単身赴任者帰省休暇取扱い規定により帰省する者に対しては食事料を一回につき二〇〇〇円に改める(八〇〇円増)。

(b) 単身赴任者については帰省休暇の他に同居家族(配偶者を含み三人)の招致を年二回認める。

(5) 更に、被告日本ステンレスは昭和五八年六月二一日労働組合との間で次の確認書を締結した。

(イ) 家族を帯同して鹿島製造所へ転任し到着日に社宅へ入居できない場合、会社は当日の宿泊について便宜をはかる。鹿島製造所より直江津製造所に帰任する場合も鹿島製造所において同様の取扱いを行う。

(ロ) 鹿島製造所においては単身赴任者が家族を招致する場合は三泊四日以内で家族招致用社宅または之に代る施設を貸与する。

(ハ) 前項の家族招致用社宅の利用者が重複しない場合は使用日数について弾力的な運営を行う。

(ニ) 第一項及び第二項の使用料は無償とする(食事費は本人負担)。

(ホ) 本取扱いは技能系従業員に適用し、千葉製作所においても之を準用する。

(二) 原告新保を人選するに至る経過と人選の正当性・合理性及び本件転勤命令の手続

(1) 千葉製作所は鹿島製造所の下工程を、被告日ス梱包は直江津製造所の下工程を受持つている関係から、仕事に共通性があるため、千葉製作所の要員五名を選出することになり(前記計画では被告日ス梱包は七名減の予定であつたが、当面五名を選出し、残二名は同社が余剰のまま抱えておくことになる)、千葉製作所と作業の類似性が強く、かつ生産移行により余剰人員の生ずる薄板部門の三四名を対象に切断作業三名、梱包作業二名の人選を行つた。

(2) 右選出にあたり、(イ)転勤経験者、(ロ)高齢者(定年まで三年未満)並びに病弱者、(ハ)班長以上並びに業務上必要な者(昭和五七年四月から一二月の間に日本ステンレス加工運輸株式会社と人員の入替を実施した直後で熟練度レベルの低下を勘案)、(ニ)家族条件として同居者に病弱者や高齢者が居る者等に該当する者を除外した結果、次の第一次選考者名簿〈編注・表2〉記載の通り、原告新保外一〇名の者が第一次的に転勤予定人員として選出された。

(3) 右一一名の中から年齢、本人の技能度、職務別人員構成並びに転出後の職場構成の調整及び今後実施されるローテーションによる転勤者の組合せを考慮し、切断三名、梱包二名の人選をした。即ち、(イ)労働協約上原則として転勤させないことになつている訴外組合の執行委員である小畑を除外し、(ロ)今回の転勤を見送ると年齢的に今後の転勤が困難となる山岸、山田を選出し、(ハ)千葉製作所の業務遂行を円滑に行う必要から玉掛資格を取得していない樗沢、渡辺を除外し、(ニ)梱包関係は二名のため残りの阿部、池田のうち母親と同居している池田を除外して阿部を選出し、(ホ)切断関係で残る五名のうち、伊倉は七三才の母親と同居しているので除外し、更に日ス加工運輸株式会社の転入者のうち、既に阿部、山田が選出されているので右会社からの転入者に片寄るのを防ぐために転入者たる平山を除外した。

その結果、原告新保、高波、山岸、阿部、山田の五名が選出されることになつた。右選出は、本人達の私生活上の理由、転勤経験者、業務上の必要性、職務上の経験、今後の配転可能性等を個々に慎重に審査のうえ公平になされたもので、客観的選考基準に従つて行われた合理性のある人選で、正当かつ妥当なものである

(4) 被告日本ステンレスは、昭和五八年七月一四日開催された第一回人事委員会で原告新保ら転勤対象者に関する事情を説明し、八月四日の第三回人事委員会で組合の了承を得、その間一一回にわたり原告新保に対し説得を加え、同月一一日に承諾の意思表示を受けたものであつて、手続的にも信義則違反はない。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて争う。

六  再抗弁

1 不当労働行為

被告日本ステンレスの原告新保に対する本件転勤命令は、同被告会社が直江津製造所における原告新保の活発な組合運動を嫌悪し、同原告を直江津製造所から排除する意図の下に発令したもので、労働組合法第七条第一号(不利益取扱の禁止)、第三号(支配介入の禁止)に該当する不当労働行為である。

(一) 原告新保は、訴外組合の組合員で、昭和三九年六月から昭和五四年二月まで、右組合の青婦部常任評議員(一期)、青婦部部長(一期)、執行委員(四期)、中央委員(半期)等の各役員を歴任する一方、上部団体の新潟県評青年部副部長(一年)、直江津地区労青婦協議長(一年)等の役員を歴任し、役員でなくなつた昭和五四年三月以降も訴外組合の少数派グループのリーダーとして活発な組合運動を行つてきている者である。

(二) 訴外組合は、かつては鉄鋼労連の最左派として鉄鋼労働運動に強い影響力をもち、新潟県下の民間労組の旗頭として県内の労働運動に大きな影響力をもつていた。訴外組合の当時の運動路線は、労働者の雇用や労働条件、権利等にかかわる職場内外の諸問題に対し、労働者の団結力を背景として正面から取組み、あくまで労働者の立場から解決して

表2 第一次選行者名簿

No.

氏名

年齢

除外条件該当項目

選考者

備考

(イ)

(ロ)

(ハ)

(ニ)

切断関係

1

伊倉久弥

41

母73才

2

五十嵐善六

48

虚弱者

3

太田義栄

44

班長代行に近い。 母身障者

4

神林敏一

47

班長 父79才 母74才

5

小山栄一

53

班長 母81才

6

小林正隆

33

7

佐野辰登

55

組長

8

坂詰祐幸

52

虚弱者

9

新保幸三

42

10

白砂晃司

39

義父(別居中であるが白砂夫婦が世話)入院中

11

高波弘太

47

12

竹田悦次

50

作業主任

13

高野信宏

37

班長 母身障者

14

津幡保文

45

父入院中

15

平山茂已

42

16

樗沢達也

42

17

森暉

46

班長代行 母病弱

18

山岸武夫

51

19

山崎武

44

妻病弱

20

渡辺俊一

49

梱包関係

21

阿部好三

45

22

池田昭一

43

母親同居

23

小畑文夫

39

労組執行委員

24

木村武春

34

班長代行

25

白砂輝男

36

班長代行

26

滝沢良雄

51

組長 養父入院中

27

竹下昭市

54

母92才

28

竹田靖信

44

29

永倉清貴

33

30

平沢一雄

54

虚弱者

31

柳沢計三郎

51

虚弱者

32

山田重春

51

33

渡辺喜久治

44

班長

34

渡辺仙一郎

50

班長代行

いくという大衆闘争、階級闘争路線であつた。

(三) 原告新保は右のような訴外組合の中心的な役員で、昭和四六年一〇月の二一一名余剰人員合理化反対闘争、昭和四七年二月の一一八名余剰人員合理化反対闘争、昭和四七年五月の不当労働行為提訴闘争、昭和四八年一月の直江津R二〇一ミルと上工程移行合理化反対闘争、昭和四九年五月の春闘、昭和五二年九月の新会社設立、業務移管合理化反対闘争、同年一〇月の労使慣行是正反対闘争、昭和五三年九月の三九〇名希望退職合理化反対闘争等において主導的役割を果してきた。

(四) 被告日本ステンレスは、昭和四七年四月の不当労働行為が訴外組合に摘発されたことを契機に、新たに親会社である住友金属株式会社の指導の下に、作業主任等末端職制(組合員職制)を中心とする徹底した反労働者的教育・研修の実施と、JK・自主管理活動と呼ばれる新たな労務管理方式を導入、実施し、右労務管理によつて育成した反労働者的・反組合的な作業主任ら末端職制を動員して、昭和五〇年八月、秘密裡に「八葉会」なる組合乗取り部隊を組織・編成した。そして、以後組合の切り崩し工作として組合員でもある「八葉会」のメンバーを使用し、昭和五三年七月の訴外組合の役員改選で、役員の主要メンバーは「八葉会」の会員で占められ、訴外組合の弱体化がはかられた。その後、訴外組合はストライキはおろか、反対闘争さえ十分に組めない組織となり、原告新保らは組合内の少数派に追込まれてしまつた。

(五) 被告日本ステンレスは、昭和五三年七月の役員改選が終るや、訴外組合に対し四〇〇名近い人員整理案を提案したところ、右組合はストライキは勿論、闘争らしい闘争もすることなく右提案を受け入れた。しかも、労使で確認した希望退職に関する協定がほとんど履行されず、一部の組合員に片寄つた強制的肩叩きが行われ、そのため多くの良心的組合員が退職を余儀なくされた。原告新保は、従来の中心的組合活動家とともに、変質した訴外組合の内で必死の抵抗を試みたが、「八葉会」の多数決の前にそれ以上の闘いを継続することができず、被告日本ステンレスを相手方とする第一事件の原告である石黒信行との連名でビラを組合員に配布して決起を促したが、組合員らは右呼びかけにも応えることができなかつた。

(六) 被告日本ステンレスは昭和五三年一二月に第一事件の原告山岸、同石黒、同小山、同小林を含む多数の組合活動家を組合活動が事実上困難な鹿島製造所と千葉製作所に出向、配転させようとし、組合運動の拠点である直江津製造所における少数派の中心的活動家を排除しようとした。原告新保をはじめ、前記山岸らは、出向・配転によつて組合活動が困難となるということもさることながら、それ以前に人間として労働者仲間として組合員に多大の犠牲を強いる出向、配転をやめさせようと考え、遠隔地である鹿島、千葉に組合員が出向、配転させられていくことに強く反対していた。

(七) 出向、配転の命令を受けた組合員のうち、原告新保と最も近い立場にある前記山岸ら四名が、原告新保らの前記意図を汲んで、右命令を拒否し、被告日本ステンレスを相手に出向、配転命令の効力停止の仮処分の申立と第一事件の訴訟を提起した。そこで、原告新保をはじめとする組合運動の活動家は右四名の裁判闘争を応援することとし、「不当配転から四君を守る会」を結成して、原告新保がその会長に就任した。以来、原告新保は、前記山岸らとともに、「労組の再生」、「労働運動の再構築」「職場の民主化」等を合言葉に、職場の内外で、ビラ入れ等の教宣活動、裁判費用等の資金カンパ活動、物販活動、被告日本ステンレスや親会社の住友金属本社への抗議要請、四名の生活援助等様々な活動を展開して来た。

(八) 被告日本ステンレスは昭和五二年一〇月に被告日ス梱包を設立し、そこに原告新保や前記山岸を出向させ、原告新保らの組合活動を封じ込めようとしたが、右目的が達成されず、また前記山岸らの出向・配転拒否にあい、しかも訴外組合の組合員に同調者が出るなどの予想外の事態が招来したため、遂に前記山岸らのリーダーでもある原告新保に最後の狙いをつけ、直江津製造所から同原告を排除し、遠隔地でしかも組合活動がほとんど不可能に近い千葉製作所に転勤させようとした。

(九) 以上のとおり、被告日本ステンレスの原告新保に対する本件転勤命令は、出向解除命令とあい俟つて、不当労働行為といわなければならない。

2 人事権の濫用

被告日本ステンレスの原告新保に対する本件転勤命令が、仮に不当労働行為に該らないとしても、前記の各事情に加え、被告日本ステンレスには、原告新保を千葉製作所に転勤させなければならない特段の必要性や緊急性がなく、しかも原告新保はすでに被告日ス梱包に出向させられているうえ、同社にも原告新保を必要としない事情などなく、更に同原告は、遠隔地への転勤など全くない条件の下に被告日本ステンレスに入社(当時は、鹿島にも千葉にも工場はなかつた)し、作業員として現地採用されているもので、小学生の子供二人と妻を現地に残しての単身赴任は、家庭生活の平和を根底から破壊されかねないものであつて、これらの諸事情を総合考慮すれば、本件転勤命令は人事権の濫用にあたる。

七  再抗弁に対する認否

1 再抗弁1の冒頭事実は争う。

同1の(一)のうち、原告新保が訴外組合の役員を歴任したことを認め、その余は知らない。

同(二)は争う。

同(三)のうち、被告日本ステンレスと訴外組合との間に昭和四六年一〇月に二一一名の余剰人員問題、昭和四七年二月に一一八名の余剰人員問題、同年五月に不当労働行為の提訴、昭和四八年一月に直江津のR二〇一ミルと上工程移行問題、昭和五二年一〇月に労使慣行是正問題、昭和五三年九月に三九〇名の希望退職問題が紛議として存在していたことを認め、その余は知らない。

同(四)のうち、被告日本ステンレスがJK、自主管理活動を導入したことを認め、昭和五三年七月の役員改選で役員の主要メンバーが「八葉会」の会員で占められた事実は知らない。その余は否認する。

同(五)のうち、被告日本ステンレスが昭和五三年九月に三九〇名の希望退職を募る提案をしたこと、原告新保が石黒との連名でビラを配布したことを認め、その余は否認する。

同(六)のうち、被告日本ステンレスが昭和五三年一二月に山岸、石黒、小山、小林を鹿島製造所と千葉製作所に出向、配転したことを認め、その余は否認する。

同(七)のうち、山岸ら四名が出向、配転を拒否し、仮処分と本訴の手続をとつたこと、原告新保が「不当配転から四君を守る会」の会長に就任したことを認め、その余は知らない。

同(八)のうち、昭和五二年一〇月に被告日ス梱包が設立されたことを認め、その余は否認する。

同(九)は争う。

2 再抗弁2の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一(第一事件)

一請求原因事実1ないし4はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで抗弁について判断する。

1  抗弁1の(四)のうち、被告日本ステンレスと訴外組合との間の労働協約第一二条に「(異動)会社が組合員に転勤、出向又は職場の変更をさせようとするときは、組合と協議して行う。異動に住所の変更を伴うときは、会社は必要な措置を講ずる」旨の規定が、就業規則第四条には「(転勤、出向又は職場の変更)従業員は正当な理由なしに転勤、出向又は職場の変更を拒んではならない」旨の規定が存在すること、被告日本ステンレスが昭和五三年一二月一日原告らに対し、本件出向、配転を命じたこと及び抗弁2のうち、被告日本ステンレスが発した本件出向、配転命令に原告らが従わなかつたこと、労働協約第一八条に「(解雇)会社は組合員が次の各号の一に該当するほかは解雇しない。……5懲戒処分として諭旨退職又は懲戒解雇が適当と認められるとき。……前各号の事由による解雇については労使それぞれの同意を必要とする」、同第二五条に「(懲戒解雇)会社は組合員が次の各号の一に該当する行為をし、又はしようとしたときは懲戒解雇に処する。……3正当な理由なしに業務上の指示、命令に従わず、又は会社の風紀、秩序をみだしたとき」との規定が、従業員就業規則第五〇条に「(懲戒解雇、諭旨退職)次の各号の一に該当する行為をし又はしようとしたときは、懲戒解雇に処する。……3正当な理由なしに、業務上の指示、命令に従わず、又は当所の風紀、秩序をみだしたとき」との各規定が存在すること、被告日本ステンレスが昭和五四年一月一一日訴外組合に原告らに対する懲戒解雇の同意を求め、訴外組合が同年一二月二〇日解雇を同意にかからしめるか否かの権利を放棄する旨被告日本ステンレスに回答をしたこと、被告日本ステンレスは同月二四日原告らに対し、同月二七日付をもつて、懲戒解雇する旨の意思表示をし、右意思表示はそのころ原告らに到達したこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  本件出向、配転命令の経緯及び本件懲戒解雇

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(一) 本件出向・配転の経緯

(1) 被告日本ステンレスは昭和九年三月三一日設立され、昭和一六年に住友金属工業株式会社(以下「住友金属」という)の資本系列に入り、主としてステンレス鋼材の薄板、厚板、鋳物等の製造加工を業として来たところ、昭和四〇年代初頭の高度成長期における耐久消費材、薄板のステンレス鋼の需要の伸びが予想され、新製造方法開発のための設備投資を必要とするようになり、そのための新工場設立が考えられたのであるが、当時被告日本ステンレスの唯一の製造所であつた直江津製造所には新工場設立の場所的余裕がなく、しかも直江津は日本海側(裏日本)に位置し、ユーザー及び原料の供給先(これらは表日本が主である)からも遠隔地であるため輸送コストも割高で、さらには電力事情も悪いなど立地条件が悪かつたため、当時住友金属が茨城県鹿島に製鉄所を設立したのを機に、同社から原材料を受けていた関係や、原材料供給にも好都合であることも手伝つて、昭和四三年鹿島に鹿島製造所を子会社として発足させ、昭和四四年千葉県に千葉製作所(被告日本ステンレスの工場)を設立した。

ところが、昭和四六年以降ステンレス業界は不況に陥り、アメリカのドル切下げと主要通貨の変動相場制への移行、さらには中東戦争に伴う石油供給削減により重油、電力、ガスなどが大幅に供給削減され、電力多消費型企業である被告日本ステンレスはコスト高に苦しむ一方、輸出環境の悪化、総需要抑制等による設備投資の冷え込みに伴う国内需要の伸び悩みに直面し、深刻な経営再建を迫られることとなつた。

とりわけ被告日本ステンレスにおいては従前から人件費の比率が大きく、これを同業二社との対比で比較すると〈編注・表3〉であり、同業他社との比較においても、被告日本ステンレスの人件費率は相当に高く、さらに被告日本ステンレスの売上高と人件費との年度別推移をみても、昭和五一年度一二・九パーセント、昭和五二年一五・二パーセント、昭和五三年度一六・二パーセント(予想)と年度毎に高まつており、また昭和五三年には円高による輸出低迷、受注減、それに対する労務賃の高騰などから、債務超過の危険性も生じ、事態は深刻化し、窮状打開のための対策をとる必要に迫られた。

表3 昭和五三年三月期現在

売上高

(億円)

人件費

(億円)

人件費率

(パーセント)

当社

(二一四六人)五五四

八三

一五・二

日金工

(一六九五人)六六四

七六

一一・五

治金工

(一八三七人)六六七

六五

九・八

(2) 既に、被告日本ステンレスは昭和五一年六月ころから自主自立の企業存続を図ることを目標に経営体質改善推進会議を発足させ、昭和五三年で経常損益を黒字に転換し、昭和五四年で繰越損益を一掃し、昭和五五年で自立に向かうという中期経営計画を策定し、具体的には、昭和五〇年役員、管理職の賃金カット、昭和五一年新規採用中止、昭和五三年管理職の定期昇給の停止、直江津製造所における部・課数の削減、会社資産の処分、昭和五三年一月構造不況業種として指定されたため一時帰休制度の導入、さらに昭和五二年秋には、被告日本ステンレスの一部門であつた部門を日ス梱包、日ス印刷株式会社、日スサービス株式会社を子会社として発足させ、被告日本ステンレスから約一〇〇人位の従業員を出向させるなどの方策により経営の合理化を図つた。

しかし、昭和五二年度において、専業三社のうち、七億五〇〇〇万円という赤字を抱えたのは被告日本ステンレスだけであり、高度成長期に肥大した人員が構造不況期においては、慢性的余剰人員として固定費を増大させた。特に直江津製造所においては、昭和五三年現在、従業員全体の稼働率は全体として六五パーセント弱であり、特に鋳造部門では五〇パーセントを割る操業状態であつた。鹿島製造所は、薄板が殆んどで、その原料素材のホットコイルが隣接の住友金属鹿島製鉄所から供給されることもあつて、輸送コストも低く、電力事情も良好で、そのため直江津製造所とでは売上高はほぼ同一であるのに、同製造所は鹿島製造所の二・五ないし三倍の人員を抱えているという状況であつた。

(3) 被告日本ステンレスは、昭和五三年六月ころから人件費削減のための措置を種々検討した結果、同年九月希望退職者を募ることを決定した。

そして、被告日本ステンレスは、昭和五三年九月七日開催された中央労使協議会で訴外組合に対し、要員調整対策として、削減人員三五〇名(特別従業員暫定措置廃止による二〇名を含む)、出向者予定人員(特別従業員暫定措置廃止による五名を含む)を提案し、一〇月二日から募集を開始したい旨を提案した。被告日本ステンレスはその後の要員確保のため事業所毎に右提案を行う予定であつたが、訴外組合の要望により全社的規模で提案することになつた。

被告会社が右提案をするにあたつて、検討した人員の配置は次のとおりである〈編注・表4〉。

表4 人員計画

五三年度末

五四年度末

五五年度末

直江津

(含研究所)

在籍

所要

余剰

一三四三

九九三

三五〇

一三二〇

九一一

四〇九

一三〇二

九一一

三九一

千葉

在籍

所要

余剰

五一

四四

五一

四一

一〇

五一

四一

一〇

本支店

在籍

所要

余剰

二七九

二五一

二八

二七五

二三四

四一

二七三

二三四

三九

鹿島

在籍

所要

余剰

四三一

三八八

四三

四三一

三七七

五四

四三一

三七七

五四

合計

在籍

所要

余剰

二一〇四

一六七六

四二八

二〇七七

一五六三

五一四

二〇五七

一五六三

四九四

右提案をめぐつて、中央労使協議会が七回に亘つて開かれ、訴外組合は当初右提案の白紙撤回を求めるとともに経営者の責任追及という態度で臨んでいたが、一〇月一四日の第六回目の団体交渉から条件闘争としての話し合いに入り、同月一六日の第七回目団体交渉から条件闘争による個人面接に入ることとなつた。被告日本ステンレスは同月二日からの募集開始を予定していたが、右の度重なる団体交渉の結果、同月二一日から希望退職の募集を開始し、一一月四日締切りとした。しかし、募集締切日までに目標より一八名未達成であつたため、被告日本ステンレスは訴外組合に募集継続を申入れたが、拒否され、その結果、未達成のままで募集を打切つた。直江津製造所における希望退職者は非常に少なく、他の事業所では予想外に多く、そのため各事業所間の人員調整が必要となつたが、この事業所間の不調整は全社的に希望退職を募るということから予想されていたため、九月七日の中央労使協議会で各事業所間の調整は出向、配転という形で調整補完することに訴外組合と合意していた。

(4) 希望退職の募集は、一一月四日打切られ、同月一〇日退職日となつたが、前記のように各事業所間での人員不調整があつたので、その人員調整を図るため、被告日本ステンレスは、同月一五日人員調整会議を開き、その結果、作業職では鹿島二〇名、千葉四名、事務職では鹿島二名、千葉一名の人員が不足していること、直江津製造所では薄板、製鋼、鍛圧、鋳造の四部門に余剰人員があることが判明した。

そして、同月二二日再建労使協議会が開かれ、被告日本ステンレスは、鹿島二〇名、千葉四名の作業職人員の欠員を直江津製造所から出向又は配転することを訴外組合に提案し、同組合はこれに同意した。

(二) 本件出向・配転命令及び本件懲戒解雇

(1) 被告日本ステンレスは、鹿島製造所、千葉製作所への出向・配転の人選について、各課にそれぞれの技能ごとに必要な人員を検討してもらうということで、その基準として、(イ)本人の希望を優先すること、(ロ)転勤・出向の経験者を除外すること、(ハ)家庭の事情、特に独身者、社宅入居者を優先すること、(ニ)技能職を指定してきたところは、未熟練者を除外すること、等で人選を進めた。

ところで、鹿島製造所からAP五名補充の要請があつたので、前記基準をもとに検討した結果、薄板課では、独身者五名、社宅入居者二名であつたが、独身者のうち一名は出向経験者であり、一名は電気工事士の資格を有していたので、これらを除外し、独身者三名(原告石黒、同小林、武藤利宏)、社宅入居者一名(坂詰省三、他の一名は班長のため除外)及び比較的動きやすいと思われる者一名(小池義武)の合計五名を選出した。

鍛圧課では、独身者二四名のうち、(イ)両親と三人家族、(ロ)同居家族に男兄弟なし、(ハ)両親のいずれかが欠けるか又は病弱な者を除外した結果、鹿島製造所へ四名(原告小山を含む)を出向者として選出した。

また千葉製作所からは薄板精整工程の作業職を主体に四名の補充要請があり、同製作所の作業と類似性の高い日ス梱包の加工課から、移動が容易と思われる者として原告山岸を、直江津製造所から三名の合計四名を選出した。

(2) 被告日本ステンレスは昭和五三年一一月二五日開催された第一回人事委員会で訴外組合に前記人選を提示したところ、同組合も右提示に基本的に合意し、個々のケースについては後日検討することとし、その後、同月二八日、同月三〇日、一二月一日と人事委員会を開いて協議を重ね、最終的に訴外組合もこれに同意した。

その間、訴外組合から家庭事情に問題がある者三名については転勤を避けて欲しい旨の要請があり、原告小山は県評青年部副部長、同小林は地区労青婦協議長であるから政治的配慮をして出向を避けて欲しい旨の要請があり、また原告らからも被告日本ステンレスに出向・配転には応じられない旨の申立書が提出された。

被告日本ステンレスは、訴外組合からの右要請のうち、原告小山、同小林に関する要請については、労働協約第一三条によつて、執行委員及び会計監査は任期中異動を行うことができないが、外部団体は右条項に含まれておらず、従つて協約上の問題はないとして拒否し、他の三名の者に対しては、それぞれに対応した。

(3) 被告日本ステンレスは、昭和五三年一二月一日出向・配転者に対し辞令を交付したが、原告らはこれを拒否した(この点は当事者間に争いがない。)。そこで、被告日本ステンレスは原告らに対し再三説得を試みたが、かえつて、原告らは当庁に仮処分申請をするなどして応じなかつたので、一二月一五日原告らに対し、出向・配転の業務命令を発した。しかし、原告らは右命令にも応ぜず、被告日本ステンレスは昭和五四年一月一一日人事委員会において訴外組合に対し、労働協約第一八条に基づき、原告らを懲戒解雇する旨の提案をした(この点は当事者間に争いがない。)。訴外組合は原告らが提訴した裁判の経過をみたいこと、最悪の事態を避けるために組合としても努力を重ねるので懲戒解雇についてはしばらく待つて欲しい旨を申入れていた。

訴外組合においても原告らの出向・配転につき中央委員会等を開いて検討を重ねたが、人員整理後の各事業所間に生ずるアンバランスを調整するための出向・配転は雇用確保のためからやむをえず、また原告らの家庭事情が特別に著しい負担となるものともいえず、原告らの拒否は理由がないと考えていた。訴外組合は昭和五四年七月一八日開催の中央委員会で、原告らの懲戒解雇について、組合の対応にも限度があり、労働協約及び人事の取扱いからみても、組合に最終的な人事権はなく、組合が責任をもつようなことはできないとして、協約第一八条について同意権を放棄する旨の判断が出され、その放棄時期について、原告らとも十分に話し合いをし、その他の諸般の情勢をみながら決定する旨整理された。その後訴外組合は幾度となく原告らと話し合い、説得を続けたが、原告らの出向・配転拒否の意思は固く、同年一二月一五日開催の中央委員会で、協約第一八条の同意条項に関する組合の権利を今問題に関してのみ、同月二〇日をもつて放棄する旨決定し、同日被告日本ステンレスに右条項を放棄する旨通告し、被告日本ステンレスは、同月二四日原告らに対し、従業員就業規則第五〇条第三号に基づき懲戒解雇する旨の意思表示をし、右意思表示はそのころ原告らに到達した(右通告及び懲戒解雇の意思表示があつたことは当事者間に争いがない。)。

なお、原告らは同月四日新潟県地方労働委員会に実効確保の申立てをしたが、同委員会は同月二七日実効確保の勧告をしない旨被告日本ステンレスに通知した。

(三) 以上認定した事実によれば、(1)被告日本ステンレスにおいては、大量の人員整理後の昭和五三年一二月の時点において、各事業所或いは鹿島製造所との間で大幅な人員配置上のアンバランスに直面しており、雇用確保の手段として、出向・配転により人員調整を図らざるをえない客観的な必要性があつたこと、(2)原告らに対する人選の過程も一定の基準に基いてなされており、その基準自体にも格別不当なものはないこと、(3)出向・配転の人選過程においては、訴外組合との協議を経て行われていることが認められ、(4)原告らは、被告日本ステンレスによる説得及び業務命令にかかわらず出向・配転に応じなかつたのであるから、右が労働協約第二五条第三号、就業規則第五〇条第三号所定の懲戒解雇事由に該当することは明らかである。

(四) ところで、原告らは、被告日本ステンレスは原告らを除いた他の者については訴外組合と十分な協議をしながら、原告らの本件出向・配転については十分な協議を尽しておらず、これは労働協約第一二条に反しているので、本件出向・配転命令は無効であると主張する。

しかしながら、前記(二)で認定したように、原告らの本件出向・配転については、被告日本ステンレスは訴外組合との間で数度の協議をしていることが明らかであり、従つて、原告らの右主張は失当である。

(五) また、原告らは、出向・配転については原告らの個別的同意が必要であるところ、原告らは本件出向・配転に同意していないのであるから、本件出向・配転命令は無効である旨主張する。

前記のとおり、被告日本ステンレス従業員就業規則第四条には「(転勤・出向又は職場の変更)従業員は正当な理由なしに転勤、出向又は職場の変更を拒んではならない」旨の規定が存在することは当事者間に争いがないところ、右規定は出向・配転の根拠規定であり、労働契約の内容をなしているものであつて、使用者は労働者に対し、右規定に基づき個別的同意を必要とすることなく、出向・配転を命ずることができるといわなければならない。なお、〈証拠〉に照らしても、原告らの入社時に勤務場所を直江津に限定することの合意があつたことは認めるに足りない。

また、〈証拠〉によれば、被告日本ステンレスと鹿島製造所は本店所在地も同一場所であること、役員構成においても六名の役員のうち五名は被告日本ステンレスとの兼務であること、鹿島製造所の業務の指揮監督権も人事権も被告日本ステンレスにおいて立案、決定されること、賃金、労働時間その他の労働条件についても直江津製造所と同一であり、労働協約も同一のものが適用されること、鹿島製造所は将来被告日本ステンレスに吸収合併されることを前提に設立されたこと、が認められ、これによれば、被告日本ステンレスと鹿島製造所は実質的にみれば同一の会社であると認められる。

右によれば、被告日本ステンレスから鹿島製造所への出向については、形式的には別会社であることから指揮監督権者に変更が生ずるとしても、実質的に出向労働者の給付すべき義務の内容の変更は配転の場合と特段の差異を生じないと認められ、このような場合には労働者の同意はもとより必要ないものといわなければならない。

また、原告山岸は日ス梱包への出向の解除について本人の同意がないので無効である旨主張するが、後述(第二・二・2)のように出向解除命令について本人の同意は必要でなく、出向解除命令は有効であつて、従つて同原告の主張は失当である。

(六) 原告らは、本件懲戒解雇は、労働協約第一八条に規定する訴外組合の同意を得ていないので無効であると主張する。

前記(二)で認定したように、訴外組合は被告日本ステンレスの懲戒解雇提案に対し、解雇を同意にかからしめるか否かの権利を放棄する旨被告日本ステンレスに通知し、同被告はそれに基づいて原告らを懲戒解雇にしたのであるが、証人風間洋一の証言によれば、原告らの問題に対して組合としては深入りしたくないため、同意或いは不同意を積極的に意思表示をすることを避けて、放棄という言葉を使つたのであり、結果的には同意したことと同じ意味である、ことが認められる。これによれば、訴外組合は懲戒解雇提案に対し、被告日本ステンレスに同意の意思表示をしたものと認めることができ、従つて、原告らの主張は採用できない。

3  以上によれば、被告日本ステンレスが原告らに対してなした本件出向・配転命令及びこの命令を拒否したことを理由にした本件懲戒解雇の意思表示は、後述の再抗弁事由が肯認されない以上有効である。

三そこで、再抗弁について判断する。

1  不当労働行為について

(一) 原告らは、被告日本ステンレスは原告らが訴外組合の青婦部役員や上部団体の役員を歴任した活発な組合活動家であることを嫌忌し、原告らの組合活動上の諸利益をはく奪するため、組合活動の活発でない鹿島製造所や千葉製作所に出向、配転を命じた旨主張する。

〈証拠〉によれば、原告石黒は昭和四七年から昭和五二年七月まで訴外組合の青婦部、県評青年部及び上越地区労青婦協等の役員を、原告山岸は昭和四七年から昭和五三年一一月まで訴外組合の青婦部、県評青年部及び上越地区労青婦協等の役員を、原告小林は昭和五〇年から昭和五四年八月まで訴外組合の青婦部及び上越地区労青婦協(本件出向命令当時は青婦協議長の職にあつた)等の役員を、原告小山は昭和五〇年から昭和五四年一一月まで訴外組合の青婦部及び県評青年部(本件出向命令当時は青年部副部長の職にあつた)等の役員をそれぞれ経験し、また原告らは被告日本ステンレスの実施する各合理化案に徹底した反対活動を行つてきたこと、訴外組合は昭和二一年直江津製造所において結成されたが、昭和四三年に鹿島支部、昭和四五年に千葉支部が結成されてからは、直江津労働組合は運用上直江津支部となり、これら三支部の上に本部が設置されることになつて、各支部とも対等な立場に立つこととなつたが、直江津支部はステンレス労働組合の発祥の地である直江津工場に依拠しているため組合活動の歴史も古く、また他の二支部に比べて組合員数も多く、訴外組合の役員(中央委員、執行委員等)も直江津支部の役員が自動的に本部の役員を兼務する形となり、役員選挙に際しても直江津支部の役員でなければ本部役員に立候補できない状況にあること、が認められ、これによれば、原告らが鹿島・千葉へ出向・配転させられることにより本部直江津での組合活動に支障を生ずるであろうことは推認することができる。

しかしながら、他方、〈証拠〉によれば、鹿島・千葉両支部からも中央労使協議会や団体交渉の際に協議委員や交渉員が出席していること、右両支部も組合設立当初は活動らしきものはなかつたものの、次第に組合内部の充実を図り、組合活動を活発にするため新執行部を発足させ、書記局の整備等を行うようになつたこと、鹿島支部においては昭和五〇年九月に青婦部を設け、昭和五二、三年にかけて上部団体である鹿行地方労、鹿連協等に参加し、役員を派遣させていること、鹿島支部の主要役員は直江津からの出向者によつて占められていること、が認められ、これによれば、鹿島・千葉両支部においても組合活動を活発にするための諸活動がなされていることを認めることができる。

そして、右認定事実及び前記二・2で認定した本件出向・配転の必要性に照らすと、本件出向・配転により、原告らの本部直江津での組合活動に支障を来たすことがあるとしても、このことから直ちに被告日本ステンレスが原告らの組合活動を嫌忌して、組合活動の活発でない鹿島製造所や千葉製作所へ出向・配転を命じたものとまで推断できず、他に原告ら主張の事実を認めるに足る証拠もなく、右主張は理由がない。

(二) 原告らは、被告日本ステンレスは鹿島・千葉に工場を進出させ、直江津製造所のスクラップ化を図り、青婦部所属の組合員を中心として多くの活動家を出向・配転させ、訴外組合を弱体化させている旨主張する。

しかしながら、鹿島・千葉に工場を進出したのは前記二・2・(一)・(1)で認定したとおり、被告日本ステンレスにおける企業経営上の必要性によるものであり、また前掲〈証拠〉によれば、直江津製造所における設備投資額は昭和四四年から昭和五四年までの間に一三三億九四〇〇万円で、補修費関係でも右期間中約二〇億円支出していることが認められる。そして、〈証拠〉によれば、直江津製造所から鹿島製造所、千葉製作所への出向・転勤経験者は、昭和四二年から昭和五三年までに三四二名で、このうち、訴外組合の執行委員経験者は四名であり、原告らが訴外組合の運動の中核であると主張する青婦部についてみてもその三役経験者は二名にすぎないことが認められる。

右事実によれば、被告日本ステンレスが直江津製造所のスクラップ化を意図しているとは認め難い上に経営合理化に藉口し訴外組合の弱体化を狙つて青婦部の組合員を中心とした組合活動家のみを出向・配転させたものとはいえないことは明らかである。

従つて、被告日本ステンレスが訴外組合の弱体化を図つている旨の原告らの主張はこれを認めるに足りる証拠がなく理由がないものといわなければならない。

(三) 原告らは、被告日本ステンレスが職制を乱造し、それぞれの職制毎に班長会、組長会、主任会を作らせ、各職制間の連帯を計り、上級管理職との日常的接触を計らせて、一般組合員との分断を図り、組合役員も会社側の意に沿う者によつて独占しようとしている旨主張する。

〈証拠〉によれば、直江津製造所の職制機構は、所長、副所長、次長、課長、副長の非組合員である管理職及び作業主任、組長、班長の非管理職の組合員から成つており、この組合員職制は会社業務の監督を行い、管理職手当類似の手当を支給されていること、組長、班長の職分制度は戦前から、作業主任の職分制度は昭和三〇年代から実施されているが、その人員は組織簡素化のため次第に減少し、昭和四四年と昭和五四年を比較すると、作業主任は二七名から一〇名に、組長は四八名から三一名に、班長は一六五名から一〇四名に減少していること、被告日本ステンレスは組合員職制に対し、部下の指導方法、職場の安全対策、JK問題等について研修を行つてきたこと、各組合員職制間の情報交換による自己啓発、親睦を深めるために、昭和四九年ころに組長会が、昭和五〇年ころに作業主任会が、昭和五五年ころに班長会が自主的に結成され、各会で研修会合が開かれ、その際会社の管理職を招いて講演を聴く等したこと、昭和五四年三月一〇日、一一日にかけて赤倉で組長会研修が開かれ、会社の管理職を招いて「組長の労務的役割」と題する講演を聴き、その後参加組長等が各チームに分れて、「良識層をいかにレベルアップするか」、「組長として人間育成をどのようにするか」、「新体制下における部下の把握」、「少数精鋭の職場をどう作り上げていくか」等の問題について話し合いを行い、その際組合問題についての話題も出てきたこと、直江津製造所の鍛圧課では、生産関係、工程推進についての情報交換を目的としてライン会合(L会合)という会合が週一度就業時間中に作業主任、組長の出席の下に開かれているが、昭和五五年二月二一日に開かれたL会合において、次期中央委員候補、同代理候補の人選について話し合いが行われたこと、を認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は信用しない。

右認定事実によれば、被告日本ステンレスは組合員職制を設け、これらに対し様々な研修を行つているが、作業主任会、組長会、班長会はそれぞれの職制にある者が自主的に結成したものであつて、被告日本ステンレスが各職制に命じて結成させたものではないことが認められる。そして会社が各職制に対し研修を行うのは職制を設ける以上必然的なことであり、また右各会が研修会合を開く際に会社の管理職を招いて講演を聴いたとしても、業務の監督者的立場にある職制としては監督を効率的に行うために必要なことでもあり、各会の研修会合で組合問題を討議したり、作業主任や組長が就業時間中の会合で組合役員選挙対策を偶々行つたとしても、組合員でもある右職制として、非難に値する程のことではなく、従つて、右のような事実があつたということから直ちに、被告日本ステンレスが組合員職制を乱造し、その職制を利用して一般組合員との分断を図り、また会社の意に沿う者で組合役員を独占しようとしたとまで推認できず、他に原告ら主張の事実を認めるに足る証拠もなく、右主張は理由がない。

(四) 原告らは、組合員職制及び労務担当の組合員によつて被告日本ステンレス労務の別働隊ともいうべき「八葉会」が結成され、訴外組合の役員の大半が「八葉会」の推薦する者で占められるに至つたが、これは被告日本ステンレスの管理職と「八葉会」会員による徹底した訴外組合の弱体化工作である旨主張する。

〈証拠〉によれば、「八葉会」は昭和五〇年八月訴外組合の一会派として会員相互の親睦を図り、民主的労働運動を推進することを規約に掲げ、鉄鋼連絡会議との連携のもとに、右趣旨に賛同する者約一〇〇名によつて結成されたこと、「八葉会」は組合における階級闘争主義を標傍する立場の組合員とは考え方が異なり、労使協調的な考え方をもつ者の集まりであること、訴外組合の組合員である限り、作業主任以下の組合員職制であろうと、会社の労務の組合員であろうと「八葉会」に加入できること、「八葉会」の会員は自己負担で鉄鋼連絡会議主催の富士政治大学校の研修に参加し、労働組合主義の講義を受けたり、七〇年代労務研究所の研修へ参加し、組合役員選挙の在り方などについて講義を受けるなど様々な研修に参加したこと、中央委員や執行委員の選挙に際し、「八葉会」の趣旨を理解し、同調する組合員の当選を図るため、各職場に働きかけをし、また「八葉会」の趣旨の理解度が得票に結びつくとして、右趣旨を支持する組合員から順次それに反対する組合員につき「◎・○・△・□・×・××」の記号を付して票読みの参考資料としていたこと、昭和五一年「八葉会」が推す渡辺義雄が対立候補の進藤礼次郎を破つて執行部の副委員長となり、昭和五三年の執行委員選挙では、「八葉会」の推す候補者が大半当選したこと、を認めることができる。

右事実によれば、昭和五〇年八月に結成された「八葉会」が訴外組合内で勢力範囲を拡大し、組合役員の大半を「八葉会」の支持者或いは同調者で占めたことを認めることができるが、「八葉会」の結成、推進に被告日本ステンレスが関与しているとは認めるに足りず、従つて、「八葉会」が被告日本ステンレス労務の別働隊であるとか、被告日本ステンレスの管理職と「八葉会」が訴外組合を独占するための工作をしたと主張する原告らの主張は理由がない。

なお、「八葉会」の会員である田原義弘が七〇年代労務研究所の研修へ参加した際同研究所が発行した「日本ステンレス(株)殿」と記載されている受講料・テキスト代七八五〇円の領収書(甲第七一六号証の一)が存在するが、証人田原義弘の証言によれば、同人は「日本ステンレス田原義弘」として右研修に参加し、領収書は自己のノートの間にはさんでおいたことが認められ、精算のため会社に提出しなかつたことが窺われるのであり、右領収書の記載のみから、被告日本ステンレスが田原を右研究所の研修へ参加させ経費を援助したと認めるには足りず、前記認定を左右するものではない。

また、清水保儀一が以前、原告ら代理人に対し、「八葉会」会員の富士政治大学校への参加は被告日本ステンレスによつてなされたとか、昭和五三年九月一四日平沢正人作業主任宅に八葉会会員と良識派三八名を集め鍛圧課の課長や副長から人員整理の会社案に賛成するよう要請されたことがあるなどと述べ、その旨を聴取したとされる書面(甲第七二九号証)が存在するところ、同人の証言内容は曖昧かつ不明確であるが、当夜安全対策面の話し合いがなされたことは認めるものの、人員整理と八葉会の関係については否定しており、右書面の記載内容が真実であるとは直ちに認め難い。

(五) 原告らは、被告日本ステンレスは提案制度、QC、ZD、JKなど労務管理の諸方策を職制を通じて従業員に押しつけて参加を強制し、右活動に消極的な者を人事考課で差別し、いやがらせをしたが、これは組合員職制の思想改造と活動家の排除を狙つたもので、その結果訴外組合をして昭和五三年一〇月の大量人員整理の際ストライキすら打てないまでに弱体化させた旨主張する。

〈証拠〉によれば、直江津製造所では昭和四二年ころから技能の向上、生産性の向上をはかるため、品質管理、無欠点運動のいわゆるQC、ZDの活動が実施されていたが、これは会社職制を中心とした上から下へのトップダウン方式の活動であつたため、従業員一人一人の意見が十分に反映されていなかつたこと、そこで、被告日本ステンレスは、昭和五一年に単調になりがちな労働に従事している職場生活に、自主的な管理・行動を行うことにより労働をより質の高いものとするとともに「明るく、楽しい、生きがいのある職場づくり」を目指すため、他社で既に実施され成果をあげていた、全員参加により各職場毎にグループを形成し、徹底した話し合いのもとで、自主的に職場内の諸問題の解決をはかるJK活動を導入したこと、被告日本ステンレスはJK事務局を設置し、JK活動を組合員職制によく理解させるためJK研修会を開いたり、従業員に対しては直江津製造所のおかれている現状、これを取り巻く経済環境をよく理解させるとともに、他会社の工場視察も行ない、JK活動を理解させようと努力していたこと、訴外組合、特に青婦部はJK活動は会社による従業員らに対する思想改造であるとか、組合の不団結要素となるといつて反対していたが、中央委員会で討議の結果JK活動には反対しない旨の決議をしたこと、JK活動の理念、趣旨を理解させるには時間を費したが、工場管理の基本として定着するに至つたこと、を認めることができる。

右事実によれば、自主管理活動は、自主的かつ科学的に職場の諸問題(品質向上、安全確保、環境改善等)を解決していく活動で、被告日本ステンレス以外の他社ではかなり早くから実施しており、右活動は組合活動と直接の関係はないことが認められ、右活動に参加しないことを理由に特段の不利益取扱をしたことを認めるに足る証拠はなく、従つて、原告ら主張の如く、右自主管理活動を通じて職制組合員の思想改造を行い、組合活動家を排除する意図を被告日本ステンレスが有していたとまで推断することはできず、他に原告ら主張事実を認めるに足る証拠もない。

なお、原告らは、直江津製造所所長小谷良男が、昭和五七年一〇月に太平洋金属工業株式会社でJK活動の原点と題した講演を行つた際、右小谷が昭和五〇年に直江津に赴任した際の労使関係は最悪の状況で、その対応策として職制をしつかりさせ、良識層を育て、従業員に企業意識をもたせることを柱として話し合いの場を作ろうとの考えのもとにJKの導入をはかつた旨講演(甲第一五五号証)したことを捉えて、会社が組合員の思想改造をはかるためJK制度を導入した旨述べるが、他方同号証には、小谷がJK活動の原点は人間性尊重の活動及び明るい活力ある職場作りにあり、その結果、良好な人間関係の育成、個人の成長、仕事の喜びを生み、業績への寄与とつながつていくことについても講演していることが記載されており、右講演内容を全体的にみると、JK活動の導入が自発的で活力ある職場作りを目指していたものであるとみることができるとともに、作業の指示命令系統である職制を教育し、企業意識をもつて生産に取り組む従業員を育成することは会社にとつて必要なことであり、右小谷の講演から、被告日本ステンレスが、組合員の思想改造や組合の弱体化を目的としてJK活動を導入したとまでは推認できず、従つて、原告らの右主張も理由がない。

(六) 以上述べたところ及び前記二における認定を総合して判断するに、結局、原告らに対する本件出向、配転命令は、被告日本ステンレスの業務上の必要性に基き、合理的に人選を進め、その結果、原告らが他の者と共に、出向、配転に適している者と判断した上発せられたものということができ、いわば、被告日本ステンレスの側の業務上の必要性を決定的要因としてなされたものと認めるのが相当であり、原告らが訴外労働組合の活発な活動家であることの故を以て発せられたものとは認めることはできず、又、原告らが、他の組合員との比較においても殊更に不利益な取扱いを受けたものとも認めることはできない。そして、被告日本ステンレスが訴外組合の運営に支配介入するものとも認め難いことは叙上のとおりである。

してみると、本件出向、配転命令が原告らに対する不当労働行為であるとする原告らの主張は、結局、これを認めるに足りないというほかはなく、右主張は失当である。

2  慣行違反について

原告らは、住居移転を伴う遠隔地への出向・配転については、当該労働者の同意を得ることが慣行化されている旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

なお、〈証拠〉によれば、訴外組合が被告日本ステンレスに対し、労働協約第一二条の異動の規定につき、本人の同意を得ることを内容とする改訂要求を提案したが、現行規定のとおりで妥結したことが認められ、この事実からしても、本人の同意を得ることが慣行化していたといえないことは明らかである。

3  人事権の濫用について

(一) 原告らは、本件出向・配転を必要とする合理的理由がなく、出向・配転の基準も不明確かつ不合理であると主張するが、本件出向・配転は必要性に基いておりその手続過程にも何ら問題がないことは前記二・2で認定したとおりであり、原告らの右主張は採用しない。

(二)(1) 原告石黒について

原告石黒の家族構成については当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、原告石黒の母は昭和四〇年脳出血で倒れ、左半身麻痺、言語障害、脳障害に陥り、昭和四九年一一月二〇日新潟県知事から言語機能障害四級、肢体不自由三級(脳出血左片麻痺、上肢不自由五級の二、体幹不自由三級)の身体障害者の認定を受けていたこと、その後機能回復訓練により左足を引きずりながらも歩行可能な状態となつたが、脳障害の後遺症により、うつ状態、高血圧症で治療を受けていたこと、昭和五四年五月七日二度目の発作が起り、脳硬塞で倒れ、右半身麻痺により寝たきりの状態となり、体幹不自由一級、言語機能障害四級の身体障害者の認定を受けたこと、一方父は母が倒れて後、原告石黒と共に一町歩余りの田を耕作し、農協の監事の仕事もしていたが、本件出向命令の約三か月前の昭和五三年八月脳血栓で倒れて右半身麻痺の状態となり、治療の結果右足を引きずりながらも歩行可能な状態まで回復したが、農作業には従事できず、昭和五四年四月には農協の監事も辞職したこと、そして昭和五五年九月一六日新潟県知事から上下肢不自由五級の身体障害者の認定を受けたこと、昭和五三年一一月当時原告の姉は結婚して別居しており、妹は東京の学校へ就学し、原告石黒が両親と同居し、両親の面倒をみていたこと、を認めることができ、右認定に反する〈証拠〉はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、本件出向命令当時、原告石黒の家庭状況は相当に厳しく、身障者である両親にとつて原告石黒は不可欠の存在であつたといわなければならず、また証人遠山もその証言(第一回)で原告石黒の家庭状況が他の原告らの中で厳しい状況にあることを認めているところである。

被告日本ステンレスは、原告石黒が昭和四九年から昭和五二年までの冬季期間会社の寮に宿泊し、昭和五三年も宿泊の申込みをしていることを理由に挙げて、転勤しても支障はない旨主張するが、右冬季期間の入寮及び入寮の申込みは、豪雪による通勤不能な事態になつた時に備えてのことであり、右宿泊申込みの事実があつたことから直ちに転勤に支障を来さないとはいえず前記認定を左右するものではない。

以上によれば、被告日本ステンレスが原告石黒に対して鹿島製造所への出向を命じたことは、右のとおりの原告石黒の側における家庭の事情を考慮すると酷に失するといわざるを得ず、被告日本ステンレス自体が人選の基準として樹てた前認定の(ハ)の基準、すなわち、「家庭の事情」を考慮する、との方針にも矛盾して来ることは否定し難いところであつて、結局、原告石黒の側の右事情を無視した不当な人事といわなければならない。

従つて、原告石黒に対する本件出向命令は、人事権の濫用として無効である。

(2) 原告山岸について

原告山岸に二人の子供がいること、唯一の出向経験者であることはいずれも当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、原告山岸は昭和五三年五月三一日将来の家屋新築のため四〇〇万円を借入れて土地を購入し、その返済のため妻もパートに出るなどして働いていること、長男は足が不自由でギブスをつけて整形治療を受けており、次男は保育園に預けられていたこと、を認めることができる。

右事実によれば、原告山岸が千葉製作所へ配転されることにより、家庭生活にある程度の不利益を生じることになることは認められるが、その生活関係を全面的に覆えすような著しい犠牲を強いるものとまではいえず、前記二・2で認定した人選基準からみても、原告山岸に対する千葉製作所への配転が不当とはいえず、従つて人事権の濫用にはあたらない。

(3) 原告小林について

原告小林の家族構成については当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、原告小林は小さいころ現在の父母の養子となつていて、将来両親の面倒をみなければならなくなること、本件出向命令当時、養父母ともに高血圧症で治療を受けていたこと、両親は雑貨商を営み、その収入と年金で生活していること、原告小林も雑貨商の手伝いを時々していたこと、を認めることができる。

右事実によれば、原告小林が将来両親の面倒をみるべきものとしても、両親の病気は本件出向時さほど重くはなかつたことが推認でき、また原告小林本人尋問において、原告小林は昭和五五年結婚したが、昭和五七年には両親と別居生活に入り、しかも両親に経済的援助をしていないと述べていることなどから、原告小林に対する本件出向命令が不当なものであつたとまではいえず、人事権の濫用にはあたらない。

(4) 原告小山について

原告小山の家族構成については当事者間に争いがない。

(イ) 〈証拠〉によれば、祖母及び母が持病で治療中であること、原告小山が長男で農業後継者であることを認めることができる。

(ロ) しかし、〈証拠〉によれば、原告小山の父は、本件出向命令当時、被告日本ステンレスの従業員で昭和五九年三月まで勤務していたこと、本件出向命令当時、弟二人も自宅から通勤していたこと、父の定年退職慰労の旅行会等に父・母そろつて出かけていることが認められる。この事実に照らして考えると、原告小山が出向しても、家庭生活の維持に著しい支障を来たすものとまではいえず、前記(イ)の事実から直ちに本件出向命令が人事権の濫用であるとまで認めるに足りない。

四本件懲戒解雇の効力

以上述べたところから、原告石黒に対する本件出向命令は無効であり、従つて同命令に従わないことを理由とする懲戒解雇も無効といわなければならないが、他の原告三名に対する懲戒解雇は理由があるものといわなければならない。

五原告石黒は、被告日本ステンレスに対し賃金支払請求権があるところ、同原告が同被告から支払を受けていた賃金額及び昭和五四年一月一日以降賃金の支払を受けていないことは前記のとおり当事者間に争いがない。

六以上の次第で、原告石黒の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、原告山岸、同小林、同小山の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとする。

第二(第二事件)

一請求原因事実1ないし4はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで被告らの抗弁について判断する。

1  〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、他に右事実を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件転勤命令の経緯

(1) 被告日本ステンレスは、昭和五三年一一月一〇日三九〇名の希望退職を実施し、その他設備投資、人員の配置転換等の経営努力をした結果、それまでの赤字基調から、厚板の需要の好転も手伝い、繰越損益は一二億三七〇〇万円の累積赤字ではあつたが、経常損益六億円を保つことができた。次いで、昭和五四年度には労務費の節減、前年度の設備投資の戦力化が功を奏し、併せて薄板市況の好転、設備投資関連の上向きの状況の中で、経常損益は四二億九二〇〇万円の黒字を、昭和五五年度には五二億一三〇〇万円の黒字を計上するに至つた。配当についても昭和五三年まで無配を継続したが、昭和五五年三月期に八分の復配をし、同年九月期以降は中間配当を含め年一割の配当をなすに至つた。

(2) しかしながら、回復基調に推移したものの、直江津製造所は鹿島製造所に比べて多額の設備投資をしたにもかかわらず、問題点を残していたところ、昭和五七年に至つて依然不況業種であつた鉄鋼業界から、大手鉄鋼メーカーが高付加価値製品の生産を求めて、ステンレス業界に進出し始め、他方ステンレス業界も住宅関連需要等の長期間の低迷、欧州ミルの攻勢、輸出不振により大幅な減産を余儀なくされるようになつた。このため、被告日本ステンレスは、昭和五八年三月に再び赤字を計上し、同年上半期も赤字基調を避けられない状況となつた。

直江津製造所は昭和五八年当初から、鹿島製造所も同年三月から赤字に転落した。特に直江津製造所は、日本海側に位置し、ユーザー及び原料の供給先(これらは太平洋側が主である)からも遠隔地で、しかも昭和五三年の人員整理後もなお労務比率が高く、また電力事情も悪く、その結果、昭和五八年の段階で鹿島製造所と比較してトン当り二万九〇〇〇円のコスト差が生ずるに至つた。

被告日本ステンレスが右のような厳しい状況の中で生き残るには薄板の生産、販売両部門の徹底した効率化を図ることが必要で、かねてからの懸案事項であつた鹿島製造所と直江津製造所との間のコスト差の大きい薄板一般品の生産を低コストで生産できる鹿島製造所に移行する一方、直江津ではチタン、高合金、特殊鋼等高度の技術を要する高付加価値製品の生産を行うことの必要に迫られた。

(3) そこで、被告日本ステンレスは右懸案事項を実施に移すため、昭和五八年五月一七日臨時中央労使協議会を開催し、被告らの抗弁1・(一)・(2)記載の(イ)ないし(ホ)の事項を訴外組合に提案した。

右提案を受けた訴外組合は、同1・(一)・3記載の(イ)、(ロ)の事項を被告日本ステンレスに申入れ、団体交渉を経て、昭和五八年六月一三日被告日本ステンレスとの間で、同1・(一)・(4)記載の(イ)ないし(ト)を内容とする薄板の効率的操業体制実施に伴う転勤に関する協定が締結された。

(二) 人選経過について

(1) 千葉製作所は鹿島製造所の下工程を受持ち、被告日ス梱包は直江津製造所の下工程を受持つている関係から、その仕事に共通性があるため、千葉製作所の要員五名を選出することとし、同製作所の作業と類似性の強いかつ生産移行により余剰人員の生ずる薄板部門の三四名を対象に切断作業三名、梱包作業二名の人選を行つた。選考の基準としては、(イ)転勤経験者、(ロ)高齢者(定年まで三年未満の者)及び病弱者、(ハ)班長以上及び業務上必要な者、(ニ)家庭条件として同居者に病弱者や高齢者が居る者等を選考対象から除外した結果、第一次選考者として次の一一名が残つた。

(切断関係)伊倉久弥、原告新保、高波弘太、平山茂已、樗沢達也、山岸武夫、渡辺俊一

(梱包関係)阿部好三、池田昭一、小畑文夫、山田重春

(2) 右一一名のうちから、年齢、本人の技能度、職務別人員構成、転出後の職場構成の調整、今後実施されるローテーションによる転勤者の組合せを考慮し、家庭的にも十分転勤可能な者として、原告新保、高波、山岸、阿部、山田の五名が選出された。

(3) 被告日本ステンレスは、右五名の選考につき、昭和五八年七月一四日開催された人事委員会で趣旨説明を行つたが、その際原告新保が同月一〇日の内示段階から、第一事件原告らの親代りである、査定が悪いので行く気がしない、家庭の安定が失われるなどの理由で拒否していることも説明した。そして被告日本ステンレスは原告新保に対し、同月二〇日付で被告日ス梱包への出向解除及び千葉製作所への転勤辞令を発し、被告日ス梱包は同日付で被告日本ステンレスへの復帰辞令を発した。しかし、原告新保は右辞令を受取らなかつた。被告日本ステンレスは原告新保に再三に亘り説得を重ねたが、同原告の転勤拒否は強く、同月三日被告日本ステンレスは業務命令を発した。その後も原告新保は転勤を拒否したが、同月一一日千葉製作所へ転勤することを承諾した。その間、原告新保の代替要員一名を千葉製作所に送つた。

(三) 以上認定した事実によれば、(一)被告日本ステンレスは昭和五三年の人員整理後一旦は回復したかにみえたが、経済界の不況その他の事情により、再度不況に陥り、直江津製造所の維持をはかる必要上本件転勤を実施せざるを得ない客観的必要性があつたこと、(二)原告新保に対する人選の過程も一定の基準に基いてなされており、その基準自体にも格別に不当なものはないこと、(三)転勤の人選過程においては、訴外組合との協議を重ねて行われていることを認めることができる。

2  ところで原告新保は、被告日ス梱包への出向については、出向元である被告日本ステンレスの従業員としての地位を保持したまま、出向先の被告日ス梱包と新たな雇用契約を締結したものであつて、本件復帰命令は解雇にあたるが、被告日ス梱包には原告新保を解雇する事由はなく右命令は無効であるとか、本件出向解除命令についても本人の同意が必要であるところ、原告新保の同意はないから無効であるなどと主張する。

被告日ス梱包は、被告日本ステンレスの直江津製造所における製品、半製品の梱包荷造り、精整等を目的に昭和五二年一〇月一日被告日本ステンレスの子会社として設立されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、労使間の合意により、出向者の身分は出向元である被告日本ステンレスにあること、出向者に関する賃金、労働時間その他労働条件は被告日本ステンレスと同一とすること、出向の意義・目的が失われた場合は被告日本ステンレスに復帰させること、の合意が成立していたことを認めることができ、以上によれば、原告新保は被告日本ステンレスとの雇用契約を維持しつつ業務上の都合により被告日本ステンレスに復帰することを予定されながら出向していたものであつて、原告新保と被告日ス梱包との間に雇用契約が締結されていたとは認め得ない。従つて、本件復帰命令が解雇にあたるとする原告新保の主張は失当である。

右認定のように、原告新保の被告日ス梱包への出向はいわゆる在籍出向にあたるが、在籍出向において、出向元が出向関係で解消し復帰させるため、出向解除命令を発する場合、出向先で恒久的に労務を提供する合意があつたなどの特段の事情のない限り本人の同意は必要がないというべきである。けだし、右の場合における出向解除命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督のもとに労務を提供するということは当初の出向元との労働契約で合意されていた事柄であるからである。そして、本件においては前認定のとおり被告日本ステンレスに復帰することが予定されていたのであるから、前記特段の事情も認められない。従つて、本件出向解除命令は原告新保の同意を必要とせず有効になしうるというべきであり、これに反する同原告の主張は失当である。

3  以上によれば、被告日本ステンレスが原告新保に対してなした本件出向解除命令及び本件転勤命令は、後述の再抗弁事由が肯認されない以上有効である。

三次に再抗弁について判断する。

1  不当労働行為の主張について

(一) 原告新保が訴外組合の役員を歴任したこと、被告日本ステンレスと訴外組合との間に、昭和四六年一〇月に二二名の余剰人員問題、昭和四七年二月に一一八名の余剰人員問題、同年五月に不当労働行為の提訴、昭和四八年一月に直江津のR二〇一ミルと上工程移行問題、昭和五二年一〇月に労使慣行是正問題、昭和五三年九月に三九〇名の希望退職問題が紛議として存在したこと、被告日本ステンレスがJK・自主管理活動を導入実施したこと、被告日本ステンレスが昭和五三年九月に三九〇名の希望退職を募る提案をしたこと、原告新保が石黒との連名で合理化に反対する内容のビラを配布したこと、被告日本ステンレスが昭和五三年一二月に山岸、石黒、小山、小林を鹿島製造所と千葉製作所に出向、配転したこと、山岸ら四名が出向・配転を拒否し、仮処分と本訴手続をとつたこと、原告新保が「不当配転から四君を守る会」の会長に就任したこと、昭和五二年一〇月被告日ス梱包が設立されたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(二) 原告新保は、被告日本ステンレスが組合員職制を中心とする反労働者的教育・研修を実施し、JK・自主管理活動によつて育成した反労働者、末端職制を動員して組合乗取り部隊「八葉会」を組織し、昭和五三年七月の役員選挙において「八葉会」会員で組合役員を占めさせ、組合の弱体化をはかり、第一事件原告らの組合活動家を排除し活動困難な鹿島製造所、千葉製作所へ出向、配転させようとし、その最後の仕上げとして原告新保を組合から排除するため本件転勤命令を発した旨主張する。

右主張に対しては、既に第一事件の理由三において認定したとおり、被告日本ステンレスが組合活動を妨害する意図の下に組合員職制に対する教育・研修を実施したことはなく、JK・自主管理活動も従業員が自主的に職場の諸問題を解決するため導入されたもので、組合活動とは直接の関係なく、「八葉会」も組合会派の一つとして自主的に結成されたもので会社とは関係なく、また第一事件原告らの組合活動を排除するために出向・配転させようとしたものとはいえず、更に、原告新保が合理化に反対するビラを配布し、「不当配転から四君を守る会」の会長に就任したことと本件転勤命令との因果関係を認めるに足る証拠はなく、結局、原告新保の右主張は理由がない。

(三) 以上を総合すると、本件転勤命令は、被告日本ステンレスの業務上の必要性を決定的要因としてなされたものと認めるのが相当であり、原告新保が組合活動をしたことを理由としているとは認められず、また被告日本ステンレスが訴外組合に支配介入したことも認められないから、本件転勤命令が原告新保に対する不当労働行為であるとの主張は失当である。

2  人事権の濫用について

前記二で認定したように、原告新保への本件転勤命令は被告日本ステンレスの業務上の合理的必要性に基いてなされたものであること、原告新保は遠隔地への転勤はない条件の下に被告日本ステンレスに入社した旨主張するが、前記二で認定したようにローテーションで転勤する旨の労使間の合意が成立していたこと、単身赴任は家庭生活を根底から破壊されかねない旨主張するが、転勤により家庭生活に不便を来すことはあるとしても、生活関係を全面的に覆すような犠牲を強いるとはいえないこと、などから本件転勤命令を不当ならしめる理由とはなりえない。他に本件転勤命令が人事権の濫用にあたると認めるに足る証拠もなく、原告新保の主張は理由がない。

3  よつて、原告新保の再抗弁はいずれも理由がない。

四被告らの本案前の主張について

1  被告らは、原告新保の求める本件復帰命令の無効確認の訴は確認の利益がない旨主張するので判断する。

前記二・2で認定したとおり、原告新保の被告日ス梱包への出向はいわゆる在籍出向であつて、原告新保と被告日ス梱包との間に雇用契約は存在しない。従つて、原告新保の身分は依然として被告日本ステンレスにあり、被告日ス梱包がなした本件復帰命令は、本件出向解除命令に伴う事後的・付随的措置にしかすぎず、それ自体独立した効果を生ずるものではない。そして原告新保は、被告日本ステンレスのなした本件出向解除命令の無効確認をも求めているところ、被告日本ステンレスは被告日ス梱包の親会社であり本件出向に関する決定権を有することは前記二の2で述べたところにより明らかであるから、本件出向解除命令の無効確認に加え、別個に本件復帰命令の無効確認を求めることは無意味である。

よつて、本件復帰命令の無効確認を求める訴は確認の利益がないといわなければならず、却下を免れない。

2  被告らは、原告新保が被告日本ステンレス及び被告日ス梱包の各従業員であることの確認を求める訴は、いずれも確認の利益がない旨主張するので判断する。

(一) 原告新保の被告日本ステンレスの従業員であることの確認を求める訴は、被告日本ステンレスにおいて原告新保が同被告会社の従業員であることを争わないのであるから、確認の利益がない。

(二) 原告新保の被告日ス梱包の従業員であることの確認を求める訴は、前記四の1で述べた被告日本ステンレスと被告日ス梱包の関係に照らし、被告日本ステンレスがなした被告日ス梱包からの出向解除命令の無効確認の訴と全く同様の救済を求めることに帰し、確認の利益はない。

(三) よつて、原告新保の右各訴は却下を免れない。

3  被告らは、被告日本ステンレスは原告新保に対し、同原告が出向・配転反対運動等正当な組合運動をしたことを理由として、昇給、昇格その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない旨の原告新保の訴は訴の利益を欠く旨主張するので判断する。

原告新保の右訴は将来の不作為を求める訴であると解されるが、右請求にいう正当な組合運動というのは何をもつて正当な組合運動というのか抽象的で判然とせず、また昇給・昇格は使用者の専権事項に属し、使用者の個別的意思表示により効力を発生するもので、意思表示がない限り効力を生ずるものではないのであるから、右のような抽象的な不作為請求は、行政庁として合目的的な判断をある程度弾力的に下しうる労働委員会による救済命令としてならばともかく、当事者間の具体的な権利義務関係に争いのあることを前提とする民事訴訟制度の下では、訴の利益を欠くといわなければならない。

よつて、原告新保の右訴は却下を免れない。

五以上のとおり、原告新保の被告日本ステンレスに対する本件出向解除命令及び本件転勤命令無効確認の請求は理由がないのでこれを棄却し、その余の訴は訴の利益及び確認の利益がないので却下することとする。

第三以上の次第で、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条を、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官米山正明 裁判官太田武聖 裁判長裁判官秋山賢三は、転補により署名押印することができない。裁判官米山正明)

別紙目録

番号

氏名

昭和五四年一月一日から

同年四月三〇日までの賃金

昭和五四年一日以降の賃金及び遅延損害金

石黒信行

金四七万六、八八〇円

昭和五四年五月一日以降毎月二五日限り

金一一万九、二二〇円及び各年五分の割合の金員

山岸行則

金四九万五、二八〇円

前同日以降、前同日限り、金一二万三、八二〇円及び

各年五分の割合の金員

小林保之

金四二万八、五二〇円

前同日以降、前同日限り、金一〇万七、一三〇円及び

各年五分の割合の金員

小山茂

金三九万三、四〇〇円

前同日以降、前同日限り、金九万八、三五〇円及び

各年五分の割合の金員

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